研究実績の概要 |
【研究の目的】浸潤性膵管癌(PDAC)は他の癌腫と比較して、豊富な細胞外基質を伴う過剰な間質増生を病理組織学的特徴とし、間質と癌細胞の相互作用がその進展に関わっており、特に細胞外マトリックスの一つであるTenascinC(TNC)は、癌細胞周囲に発現し、癌の浸潤・転移の促進への関与が示唆されている。そこで、PDACに対するCRTの組織学的効果と癌間質内TNC発現との関連を検討し、biomarkerとしての有用性を検証した。 【研究の方法】2005年2月~2014年9月にCRT(Gem/Gem+S-1)を先行した手術治療に同意が得られ、腺癌の病理診断が得られた遠隔転移のないPDAC220例中、CRT後切除した135例(R: n=11, BR: n=81, UR-LA: n=43)を対象とした。CRTの組織学的効果をhigh (腫瘍壊死効果>50%)とlow (腫瘍壊死効果<=50%) responderに分類し、治療成績を検討した。CRT後切除群 (n=60)と手術先行群(n=12)の癌間質内TNC発現を免疫組織学的に評価(腫瘍の>20%TNC発現を陽性と定義)した。さらに、2015年2月~11月に登録された治療前後のPDAC23例と健常者(n=3)の血清TNC値をELISA法で測定した。 【結果】high (n=46) vs. low responder (n=89)のR0率, 5-yr OS rateは、91.3 vs. 71.9%, 47.1 vs. 34.9 %であり、high で有意に良好であった。CRT後切除例におけるTNC陽性率は54.0%であり、手術先行群の91.7%よりも有意に低下していた。CRT後切除例におけるTNC 陽性率はup-front surgery例よりも有意に低率であり(with vs. without CRT: 54.0 vs. 91.7%)、high responderで有意に低率であった(high vs. low: 18.8 vs. 70.6%, p<0.01)。PDAC vs. 健常者の血清TNC値(平均値)は、54.6 vs. 25.4 ng/mlでPDACで有意に高値を示し、CRT前後で、血清TNC値は上昇を示した(before vs. after: 54.6 vs. 66.5 ng/ml)。 【考察】CRTの高い組織学的効果はR0率と予後向上に貢献し、腫瘍内TNC発現評価は有用なbiomarkerとなる可能性が示唆された。
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