研究課題
膵癌は他の癌腫と比較して、豊富な細胞外基質を伴う過剰な間質増生を病理組織学的特徴とし、間質と癌細胞の相互作用がその進展に関与している。細胞外マトリックスの一つであるTenascin-C (TN-C)は、活性化膵星細胞により産生され、癌細胞周囲に発現し、癌の浸潤・転移の促進への関与が示唆されている。これまで、膵癌に対する化学放射線治療(CRT)が癌間質内TN-C発現に与える影響やTN-C発現の治療効果マーカーとしての有用性は検証されていない。そこで、局所進行切除不能(UR-LA)膵癌を対象にCRT先行手術の治療成績と組織学的効果判定の関係、CRTの治療効果判定における癌間質内TN-C発現の有用性について検討した。当科で化学放射線治療を施行した110例のUR-LA膵癌のうち、CRT後に膵切除術を施行した46例を対象とした。切除標本におけるCRTの組織学的効果をEvans分類に基づいて、50%以上の腫瘍壊死効果を認めたhigh responderと50%未満のlow responderに分類し、disease specfic survivial (DSS, MST)を比較するとhigh responder12例はlow responder34例よりも有意に高いR0切除率を達成したが、DSSは有意差を認めなかった(29.8 vs 21.0ヶ月)。一方、癌間質内TN-C発現はCRTの組織学的効果と逆相関を認め、22例のTN-C発現陰性例は23例のTN-C発現陽性例よりも有意に予後(DSS)が良好であり(29.3 vs 17.1 months)、DSSに関与する多変量解析において独立した予後規定因子であった。以上の結果から、術前治療後の癌間質内TN-C発現は、治療効果ならびに残存腫瘍のviabilityや生物学的悪性度を反映しており、臨床的応用が可能なマーカー となりうると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
化学放射線治療が、膵癌関連細胞外マトリックスであるTenascinC(TNC)の発現、TNCを合成する活性化膵星細胞に与える影響を明らかにする臨床研究については概ね順調に進んでおり、学会発表を行ったとともに、論文報告を行っている(Clinical Significance of Histological Effect and Intratumor Stromal Expression of Tenascin-C in Resected Specimens After Chemoradiotherapy for Initially Locally Advanced Unresectable Pancreatic Ductal Adenocarcinoma, Aoi Hayasaki, Yasuhiro Murata, et al. Pancreas. 2018 Apr;47(4):390-399.)。化学放射線治療が癌微小環境における免疫担当細胞や免疫抑制細胞に与える影響の解明は現在、進行中である。
血清TNC測定のCRTの治療効果評価における有用性を検証する。CRTが膵癌組織内に動員される免疫抑制細胞(MDSCs, Tregs)と免疫担当細胞に与える影響の解明について実施を進める。具体的には膵癌患者の膵癌組織内、血液中に動員される免疫担当細胞ならびに免疫抑制細胞である骨髄由来免疫抑制細胞(MDSCs: CD11b+CD15+cells)とTregの動態 に与える影響を明らかにする。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Pancreas
巻: 47(4) ページ: 390-399
10.1097