難治性固形癌患者の予後は極めて不良であり、新規治療薬の開発が急務である。我々は、すでに抗癌作用が報告されているmicroRNA-29に着目し、この塩基配列の所定部位を変異させて得られた核酸配列MIRTXを同定した。本研究では、MIRTXの機能解析と、担癌動物モデルを用いた安全性・有効性を評価し、新規核酸医薬の臨床応用を目的とした。平成27年度は、下記に示した3つの研究成果を達成した。①MIRTXの機能解析。大腸癌細胞株を用いた細胞増殖アッセイでは、MIRTX 投与により有意な抗腫瘍効果を認めた。さらに、抗アポトーシス遺伝子であるMCL1、BCL2、Survivinの発現低下を認めた。以上より、MIRTXが大腸癌細胞株に対してアポトーシスを誘導し、高い抗腫瘍効果を示すことが示唆された。②MIRTX の標的遺伝子の同定。cDNAマイクロアレイと公開データベースを用いた解析を行い、MIRTX の標的遺伝子としてPIK3R1とCXCR2を選出した。さらに、PIK3R1とCXCR2の塩基配列を導入したルシフェラーゼ・ベクターを作成し、ルシフェラーゼ・レポーターアッセイを行ったところ、MIRTX 投与群ではPIK3R1とCXCR2のルシフェラーゼ活性が有意に低下した。以上より、PIK3R1とCXCR2はMIRTXの直接の標的遺伝子であることが示唆された。③MIRTX の発癌シグナル制御機構の解析。近年の研究結果から、CXCR2の下流分子NF-κBが抗アポトーシス経路の発癌シグナルに関与することが報告され、これに着目して解析を行った。その結果、MIRTX投与群では、リン酸化NF-κBの発現低下と、NF-κBルシフェラーゼ活性の抑制を認めた。以上より、MIRTXがCXCR2とNF-κBシグナルを抑制することで、アポトーシスを誘導し、高い抗腫瘍効果を示すことが示唆された。
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