研究課題
膵癌に特徴的な過剰な間質増生や活性型膵星細胞の腫瘍促進的な働きは広く知られる。オートファジーが膵発癌を抑制する一方で、確立された膵癌の進展を促進することは知られるが、間質のオートファジーの役割は明らかでない。また前癌病変周囲の間質や膵星細胞の発癌過程における役割も不詳である。本研究では膵発癌過程での周囲間質のオートファジー機能を解明し、新たな膵癌早期診断や前癌病変から癌への進展の予防法を開発する。本年度は、膵癌切除組織を用いて、オートファジーのマーカーとして広く使用されているLC-3、活性化膵星細胞のマーカーであるα-SMAでの蛍光免疫二重染色を行い、ヒト膵癌組織の膵星細胞でオートファジーが亢進しており、治療ターゲットになりうることを見出した。また、膵星細胞と膵癌細胞との共培養モデルにおいて、膵癌細胞単培養時と比較して、膵星細胞との共培養で膵癌細胞の浸潤能が増強し、さらにオートファジー阻害薬であるクロロキンを添加することで、膵星細胞による膵癌細胞の浸潤能増強効果が減弱することを示した。さらにオートファジー関連遺伝子のAtg5やAtg7を抑制した膵星細胞を作成したところ、クロロキン投与時と同様に、膵星細胞の増殖能が低下し、膵星細胞との共培養による膵癌細胞の浸潤能・遊走能増強を減弱した。膵癌細胞と膵星細胞をマウスに同所移植し、膵星細胞のAtg7抑制の有無によって、膵星細胞のオートファジーの役割をin vivoでも検討した。膵星細胞のオートファジー抑制は、腫瘍容量の有意な低下と線維化抑制を認めた。膵星細胞のオートファジーを抑制すると、癌間質細胞を介して、膵癌細胞の悪性度を低下することが示唆され、これを学会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
オートファジー阻害剤であるクロロキンによる膵星細胞のオートファジー抑制は、膵星細胞の増殖を抑制するだけでなく、膵星細胞との共培養における膵癌細胞の浸潤能・遊走能の増強を減弱した。またオートファジー必須遺伝子であるAtg5,Atg7をノックダウンした膵星細胞でも、クロロキン投与時と同様の結果が得られた。さらに、膵癌細胞と膵星細胞をマウスに同所移植し、膵星細胞のAtg7抑制の有無によって、膵星細胞のオートファジーの役割をin vivoで検討したところ、膵星細胞のオートファジー抑制は、腫瘍容量の有意な低下と線維化抑制を認めた。本研究の進捗としてはおおむね順調に進展しているといえる。
膵癌切除組織を用いた、LC3およびαSMAの染色で、さらに前癌病変部の間質におけるオートファジーを追加検討する。この免疫組織染色を用いて、予後との相関を検討する。成長因子やサイトカイン,ケモカインのPCRを用いた解析を行い、オートファジー抑制によって低下する因子の解明を進めていく方針である。癌間質構造を示す遺伝子改変膵癌モデルマウス(KC/KPC マウス)を用いて、癌進展の各段階での周囲間質の網羅的遺伝子発現解析を行う。これにより発癌初期段階に関わる間質の遺伝子発現パターンを解明し、新たな発癌予測診断マーカーを検索する。
研究計画は順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。
試薬類、抗体、培養用試薬、培養器具等
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