研究実績の概要 |
我々はすでに肝癌細胞株において温熱刺激による低浸透圧細胞破壊の増強効果を確認していたため、まずは肝癌細胞株を用いた実験を行った。ウエスタンブロット法により肝癌細胞株(HLE、Alexander、Hep-G2)におけるアクアポリン1, 3, 5蛋白発現を比較検討したところ、Alexander細胞でアクアポリン1, 5発現が高いことを確認した。一方、温熱刺激(42度)による殺細胞増強効果もAlexander細胞において最も高く、アクアポリン発現レベルに応じて温熱刺激による殺細胞増強効果に違いがあることを確認した。アクアポリン高発現株であるAlexander細胞を用い、温熱刺激によるアクアポリン1, 5蛋白の発現変化を解析したところ、アクアポリン1に変化を認めなかったが、細胞膜および細胞質のアクアポリン5発現が減弱することを確認した。高分解能型自動細胞解析装置を用いた細胞容積変化の解析では、温熱刺激によりAlexander細胞の細胞容積が減少したが、アクアポリン5 siRNAを用いてAlexander細胞のアクアポリン5発現を制御した際にも同様の細胞容積減少が確認された。Alexander細胞の細胞周期解析では温熱刺激によるG0/G1停止を認めたが、アクアポリン5のノックダウン実験でも同様にG0/G1停止が生じることを確認した。以上の結果から、アクアポリン5発現癌細胞株における、“温熱刺激によるアクアポリン5の下方制御を介した細胞増殖抑制”という新たな分子生物学的・生理解剖学的メカニズムを明らかにした。 一方で、低浸透圧刺激による癌細胞破壊療法については、胃癌、大腸癌、肝癌細胞株において、クロライドチャネル、カリウムチャネル、水チャネル阻害薬併用による殺細胞増強効果を明らかにしており、これらの研究成果はすでに学会発表するとともに英文雑誌に投稿している。
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