研究実績の概要 |
micro RNA(miRNA, miR)は約20塩基程度の短鎖RNAであり、正常細胞において恒常性の維持などに重要な役割を果たすが、癌を含む多くの疾患においても、その発現異常が病態の形成に深く関わる事が知られてきた。癌においては、血中miRNAもその病態や予後と関係する事が知られ、biomarkerとしての報告が散見される。一方、膵癌は全世界の死因第4位であり、今後さらに増加していくものと考えられている。しかし、外科的切除できても5年生存率は20から30%であり、予後不良の癌である。手術のみでは根治が望めないため、現在では術前の化学療法、放射線療法を行うことで治療成績を向上させようと試みがある。特にすでにリンパ節転移を伴う膵癌に対しては術前加療の恩恵が高いと考えられる。しかしながら、膵癌術前のリンパ節転移の正診率は各種画像診断のmodalityを用いてもまだ低い。術前にリンパ節転移を正確に診断できることは、治療方針決定のためには重要な要因である。膵癌の術前補助療法が可能になりつつある今日、より正確にリンパ節転移を診断することの重要性が再認識されてきている。従来の多くの研究では、膵癌の原発巣のみを対象として扱ってきたが、リンパ節転移のある膵癌は非常に予後が悪い事が知られており、その診断には画像診断のみでは限界があると考えられる。このため、膵癌のリンパ節転移を指標として、その進展やリンパ節転移の早期診断に関わるmiRNAを同定できれば、有用な血漿biomarkerとなる事はもちろん、膵癌リンパ節転移のメカニズムを解明できる可能性も高まり、その意義は極めて大きいと考えられる。このように、本研究を通してmiRNAを介した膵臓のリンパ節転移メカニズムを探索する事は、診断のみではなく治療への応用も十分に考えられる。
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