研究課題
重症心不全に対する最良の治療方法は心臓移植であるが、深刻なドナー不足により現実的な選択肢とは言い難い。患者自身の細胞や幹細胞を不全心に移植する細胞移植療法は、このような状況を打破する方法として研究が進められている。しかし本法では、移植する細胞種によって治療効果がまちまちであり、臨床応用には適切な細胞種選択が求められる。心臓に内在するCardiosphere由来細胞は、心筋再生能、血管新生能、心機能回復能の観点から現状最も優れた細胞種であると考えられており、実際に心不全患者への臨床試験が行われている。しかしながら、他の細胞種と同様に不全心における細胞生着率は低く、最大の治療効果を生み出す阻害要因と考えられている。そこで本研究では、細胞をシート状にして患部へ移植する細胞シート技術を応用し、Cardisosphere由来細胞シートの作製および動物モデルでの心機能回復効果等について検証する。平成27年度は、マウスおよびヒト心臓よりCardiosphere由来細胞を単離し、温度応答性培養皿を用いてCardiosphere由来細胞シートが形成されるか、本細胞シートからどのような液性因子が分泌されるか、等を検討した。その結果、マウスおよびヒト由来の細胞からcardiosphere由来細胞シートの作製に成功し、この細胞シートから血管新生や細胞生存に関与するとされるVEGF、HGF、IGF-Iなどの細胞成長因子、タンパク質分解酵素であるMMP2などが分泌されることが明らかとなった。これらの結果は、次年度に行う予定のin vivo移植実験に期待を抱かせる。
2: おおむね順調に進展している
初年度にはマウスおよびヒトから採取したcardiosphere由来細胞を用いて細胞シートを作製すること、さらに、シートからどのような因子が分泌されるかを明らかにすることなどを主目的としており、当初の目標を概ね達成できたと考えている。
平成27年度にはCardiosphere由来細胞シートの作製法が確立できたため、平成28年度はマウス陳旧性心筋梗塞モデルへの移植によりその治療効果を検証する。主な評価項目は、心エコー検査による左室機能改善の有無、梗塞部周囲の血管新生率、梗塞部面積の縮小率、などである。なお、マウス陳旧性心筋梗塞モデルの作製技術は既に習得しているため、スムーズに進行できるものと思われる。
細胞シート作製法を確立するためにやや多めに予算を計上していたが、予想以上に順調に進んだために想定額よりも安価に仕上げることが出来たため。
平成27年度に発生した繰越金は、平成28年度に行う予定の動物実験に充てることにする。具体的には、血管新生効果に対する検証において評価に用いる抗体の数を増やし、より精度の高い検証を行う予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 22781
10.1038/srep22781