昨年度までに、マウスおよびヒト心臓由来のcardiosphere-derived cellsから細胞シート(CDCシート)を作製するプロトコルを確立し、その機能特性について検討してきた。そこで本年度は、CDCシートの不全心に対する治療効果について検証した。 冠動脈左前下行枝を結紮して作製したマウス陳旧性心筋梗塞モデルの不全心へマウスCDCシートを移植し、4週間後の左室駆出率および線維化率などを測定した。その結果、移植前に低酸素刺激により機能賦活化したマウスCDCシートの移植により、不全心左室機能の有意な回復および線維化部位の縮小が誘導された。このことは、CDCシートの同種移植により梗塞心の機能および組織学的な治癒が生じていることを示している。その一方で、移植した細胞シートからホスト心臓へCDCが移動し、梗塞心内に新たな心筋細胞を作り出したという事実を確認することはできなかった。これらを総合的に判断すると、成体心臓に内在する心筋幹細胞の一種であるcardiosphereは、シート化することで不全心における生着率の向上が生じ、低酸素刺激により獲得した高い血管新生効果により虚血不全心における血流回復が生じたことが予想される。 CDCは我が国をはじめ米国においても既に臨床試験に用いられており、特別なスキャフォールド等を用いずに細胞成分だけで作製する細胞シート技術との応用は、今後、現実的かつ有用な重症心不全治療法となり得る。
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