研究課題
本研究は、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞由来の心筋細胞にヒトiPS細胞由来の神経細胞を配合することにより、心筋細胞のみからできた細胞凝集体(スフェロイド)の機能を向上させ、さらにそのスフェロイドからできた三次元構造体の機能向上を目指した研究である。平成27年度の実施状況としては、まず購入した心筋細胞と神経前駆細胞を配合することにより、神経細胞配合下のスフェロイドを作製することから始めた。まず購入した神経前駆細胞を、神経細胞に分化させた後に、心筋細胞と混ぜることを試みた。しかしpoly-L-lysineコーティング上の神経細胞の剥離に難渋し、安定して一定数の神経細胞を得ることが困難であった。そのため、購入時凍結保存されていた心筋細胞と神経前駆細胞を同時に解凍し、配合することにより安定的に目標数(2500細胞/スフェロイド)を満たした96wellへの細胞分注を行うことができた。分注する神経前駆細胞の割合は0%,20%,40%の3群にわける条件検討を行った。分注された細胞は2日後にはどの群においても凝集しており、歪でありながらも、ほぼ均一なサイズのスフェロイドが得られた。さらに3~4日後にはほぼ全てのスフェロイドが順次拍動を開始した。このことによりヒトiPS細胞由来の心筋細胞は同細胞由来の神経前駆細胞を少なくとも40%配合してもスフェロイド作製は可能であり、拍動まで問題なく可能なことが示された。作製されたスフェロイドは作製後連日30秒間ずつ動画撮影され、拍動数なども記録した。また神経前駆細胞を40%配合した群のみスフェロイド作製後、約2週間あたりで全て拍動が停止した。これが今後、三次元グラフト化し、移植を行う上でどのような意味を持つかどうかは今後の検討課題の一つである。上記結果を踏まえ、次年度のさらなる配合比率や拍動収縮解析に繋げられればと考える。
3: やや遅れている
計画の予定としては、グラフト作製が完了しており、ヌードラットへの移植を試みる段階ではあったが、基盤技術としてのスフェロイド作製に、細胞の準備などで難渋し、時間を要した。この神経前駆細胞を心筋細胞に混ぜるというスフェロイド作製そのものも、独創的なアプローチであり、試行錯誤を要するのは致し方ないものと考えられる。詳細な配合比率の決定には至ってはいないが、幸いスフェロイド作製および拍動確認は可能としており、そのスフェロイドの収縮解析といった機能解析の準備はできている状況でもある。これらの結果を踏まえて、次年度の成果に繋げたい。
求められている、より高機能なスフェロイドとは、ヒトiPS細胞由来心筋細胞100%のスフェロイドと比べて収縮機能の改善であったり、パラクライン効果のより強力な発現などが期待されるものである。本研究では、ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞を配合することにより、スフェロイドの動画記録で収縮を解析したり、スフェロイドそのもののタンパク解析などにより心機能改善因子の発現を証明していくことができればと考えている。そして、今後は前年度に達成したスフェロイド作製技術を用いて、更なる高機能スフェロイド作製を目指すと同時に、そのスフェロイドを用いた三次元パッチグラフト作製とヌードラットへのグラフト移植を目指したい。
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胸部外科
巻: 68(7) ページ: 496, 499