研究実績の概要 |
大動脈瘤は、慢性炎症による壁の脆弱化と拡張が進行し破裂を来す致死的疾患であるが、病態評価指標や内科的治療法は確立していない。通常の動脈硬化と比較して瘤組織ではBリンパ球(B細胞)浸潤および免疫グロブリンの著明な沈着が特徴的であるが、その意義は不明である。B細胞と免疫グロブリンは慢性炎症病態に深く関わる可能性が高く、その意義の解明は病態制御に直結すると期待される。申請者はこれまでの研究で、B 細胞が免疫グロブリンを介して瘤病態を悪化させることを発見した。本研究ではこの発見に基づき、免疫グロブリンの産生と炎症促進作用の双方に関わる免疫制御分子 Syk に着目し、大動脈瘤の炎症病態を解明する。マウス実験では、大動脈周囲に塩化カルシウムを塗布して炎症を惹起させ6週間で完成する大動脈瘤モデルを用いて検討した。野生型マウスと比較して先天性B細胞欠損マウス(μMTマウス)では炎症シグナルであるJNK, Syk, NFkBの活性化、ECM分解が抑制され、瘤形成が抑制された。また、μMTマウスでは、免疫グロブリン投与によりSyk, NFkBの活性化とMMP-9の発現が増加し、瘤形成が促進された。免疫グロブリンは炎症細胞表面のFc受容体に結合し、Syk活性化を介して炎症シグナルを伝達する。Sykは炎症細胞特異的に発現するSrcファミリーチロシンキナーゼであり、B細胞の活性化にも必須の役割を果たす。野生型マウスの大動脈瘤モデルにおいて、Syk阻害薬投与群では、非投与群と比較してSyk, JNK, STAT3の活性化とIgGの沈着が抑制された。以上の知見から申請者は、大動脈瘤において、Syk制御によりB細胞活性化と免疫グロブリンによる炎症促進の双方を制御し、瘤病態を抑制できる可能性を見出した。
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