近年、固形がんにおける原発巣と転移巣をブロックに分割してそれぞれのゲノム変異を検索し、遺伝子変異の腫瘍内多様性を解析するという新しいアプローチがなされている。この手法によりこれまで原発巣の1~数カ所のみで議論がなされていたゲノム変異の多様性について、複数領域の包括的数理解析によりそれを明らかにする報告がなされている。Epidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子変異に代表される肺腺癌のdriver oncogeneは、腫瘍発生の最も初期の段階に変異をきたす遺伝子とされている。腫瘍が複数の組織亜型を伴って増大する中、driver mutationを有する腫瘍細胞の集団は、腫瘍内で不均一な分布をすることは少ない、即ち腫瘍内多様性は極めて稀であると報告されている。肺腺癌はその発育段階においてdriver mutationとは別に、様々な遺伝子異常が過剰に蓄積され、形態的にも複雑な腫瘍内多様性を有する腫瘍へと進化していくと考えられる。 複数の組織亜型が混在する浸潤性肺腺癌の外科切除検体を用いて、各組織亜型を構成する腫瘍細胞集団の遺伝子変異を個別に解析し、加えて同一症例のリンパ節転移巣の腫瘍細胞集団の遺伝子変異も同時に解析することにより、腫瘍が特にリンパ行性の転移能を獲得する上で重要な遺伝子変異を推定することができると考え、本研究計画を立案した。対象とする浸潤性肺腺癌の原発巣とリンパ節転移巣から腫瘍細胞のみをレーザーキャプチャーマイクロダイセクションしDNAを抽出した。次世代シーケンサーを用いてIon AmpliSeq Comprehensive Cancer Panel target gene listにある癌関連遺伝子の約400遺伝子の変異検索を現在行っている。ライブラリー化に若干の時間を要しているが、変異結果を基に解析を行う予定である。
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