最初に既存の分子標的薬の治療対象となる遺伝子変異について、予後因子の側面から検討を行った。肺腺癌stage Iでは再発し得ない特定の組織型とEGFR変異を有さない特殊型を除いて解析することで、EGFR変異の存在自体が完全切除後の再発因子となることが判明した。続いて、次世代シークエンサー (NGS)による遺伝子解析を行ったが、原発巣と転移巣に差異はなく、むしろ転移巣では遺伝子変異の発現が原発巣に比べて少ない傾向にあり、プロテオミクスによる蛋白質解析は効果が乏しいと判断されたため行わなかった。 NGSの結果については解析方法により発現のプロファイルが異なってくるが、妥当性については腺癌の原発巣と転移巣を検討した際に別のコホートを用いて同時に行ったNGSの結果で検証している。我々の行ったNGSの結果解析では、従来はEGFR変異がないとされる肺の神経内分泌腫瘍でEGFR変異が検出され、実際にその症例でEGFR-TKIが奏功しており、解析結果の正当性は得られている。このNGS結果を踏まえて肺腺癌リンパ節転移陽性症例の分類を行った。 NGSでは検証できなかった肺癌原発巣とリンパ節巣症例において、EGFR変異の有無についてはNGS結果同様に80%以上の高い確率で一致しており、ALK転座の発現は100%一致していた。 実際にリンパ節転移陽性の肺腺癌を原発巣の遺伝子変異・転座の有無で分類すると、遺伝子変異・転座を有する方が再発までの期間が短い傾向にあったが、再発後の予後は分子標的薬剤を投与された症例の方が投与されなかった症例に比べて有意に長かった。 以上より分子標的薬剤の対象となる遺伝子変異・転座の発現は早期癌でも進行癌でも再発の危険因子になり、再発後に分子標的薬剤の投与により予後を延長されることから、遺伝子変異の発現による分類は治療方針に関わり、有効な分類方法であると結論付けられた。
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