研究実績の概要 |
近年社会問題化している悪性胸膜中皮腫(MPM)に対して、シスプラチン(CDDP)とペメトレキセド(PEM)による術前化学療法後に切除術を行っているが、極めて予後不良な群が存在し、治療効果を予測した個別の制御法開発が急務である。本研究の目的は、包括的なゲノム解析により複数の体細胞変異、遺伝子発現を同時に解読可能な次世代シークエンサー(NGS)を用いて、①CDDP、PEMそれぞれの作用経路、②癌幹細胞、③低酸素応答機構を介した悪性度獲得の観点からMPMの抗癌剤(CDDP、PEM)耐性メカニズムを解析し、MPMに対する最適な新規治療戦略を探究することである。 免疫染色による検討では化学療法前の葉酸代謝酵素であるDHFR発現が化学療法、腫瘍切除後の予後、再発と有意に相関していた。さらに化学療法前後のFFPE検体27例からDNA,RNA抽出を行い、NGSを用いてCancer hot spot panel v2(CHPv2)により50geneを網羅的に検索した。19例より結果が得られ、TP53, IDH2,ABL1, FBXW7, PTENの各遺伝子がMPM症例で増幅していた。さらに十分量のRNAが抽出できた12検体を用いてOncomine Comprehensive assayを用いて解析したところ、BAP1(5例),NF2(3例),NOTCH1(1例),ABL1,ATM,BRCA2,CCND1,FBXW7,FGFR3,NKX2-7,PTEN,STK11,TSC1(各1例)に変異を認めた。FFPEを用いた解析の問題点は、特に化学療法前の生検材料でのDNA,RNAの収率が悪く、化学療法前後の比較解析が困難な点にあった。現在化学療法前後のMPM18症例の凍結検体より、DNA,RNAの抽出を行い、NGSを用いて、化学療法耐性メカニズムへの関与の可能性がより高い候補遺伝子の絞り込みを行っている。
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