臨床検体から樹立した腫瘍幹細胞株は増殖速度が遅く、治療効果検討に多大な時間を要していることから、増殖速度の速い人工腫瘍幹細胞を用いた実験を主に行うこととした。人工腫瘍幹細胞におけるmicroRNA発現パターンと人工腫瘍幹細胞を分化誘導した細胞におけるmicroRNA発現パターンとを網羅的に比較解析したところ、人工腫瘍幹細胞は臨床検体から樹立した腫瘍幹細胞株とほぼ同様の発現パターンを示していることが明らかとなった。分化誘導前の人工腫瘍幹細胞ではmiR-218の発現が最も抑制されており、次いでmiR-128aの発現が抑制されていた。これらのmicroRNAはともに幹細胞性維持に関与するポリコーム蛋白BMI発現を抑制することが報告されている。その他、miR-34aの発現が人工腫瘍幹細胞では抑制されており、NOTCH pathwayの発現亢進を通じて幹細胞性を維持している可能性が示唆された。HVJ-Eを用いてmiR-34aを導入したところ、人工腫瘍幹細胞自体のPD-L1発現抑制が誘導された。このことからmiR-34aを治療分子として用いることにより、幹細胞性維持抑制のみならず免疫チェックポイント阻害にも寄与する可能性が示唆された。すでに人工腫瘍幹細胞移植モデルに対するHVJ-E投与タイミング・回数、microRNA至適封入量に関する検討を終えており、皮下腫瘍モデルと脳腫瘍モデルを用いた治療実験を行い、効果の解析中である。
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