研究課題/領域番号 |
15K19952
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 將太 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80643725)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / 神経膠腫 |
研究実績の概要 |
神経膠腫の手術において、不明瞭な腫瘍境界の剥離により術後神経症状の悪化を来す危険性があり、安全かつ最大限の摘出を目指すにあたり術中蛍光プローブによる腫瘍の可視化は有効である。現在5-アミノレブリン酸(5-ALA)が悪性神経膠腫手術において保険収載され汎用されているが、偽陽性・偽陰性、術前内服投与・再投与不可などの限界がある。それゆえ5-ALAを補完する局所噴霧にて診断可能な蛍光プローブの開発を目指した。 初年度に続き、悪性神経膠腫患者から得られた腫瘍検体を用いてプローブスクリーニングを行った。具体的には新鮮生標本および凍結検体ホモジナイズサンプルを用いて、治療上周囲の正常脳の切除が必要な症例では正常脳とのペアで、蛍光強度の時間的推移を解析し、腫瘍に特異性の高いプローブの選定を試みた。検体の腫瘍性・正常性を検証するため、使用した検体をパラフィン固定し、病理組織学的検討を加えた。初年度に使用した複数のプローブに加え、生体情報学教室で新たにライブラリーに追加された複数のプローブも適宜検討に加えた。正常脳で蛍光強度が上昇してしまうプローブを除外するべく、複数の正常脳の凍結検体ホモジナイズサンプルから正常脳ミックスを作成し解析を行った。 悪性神経膠腫に特異的なEGFRvIII変異に関して、同タンパクに対する抗体医薬が変異を有する再発膠芽腫に対して有効であった。EGFRvIII変異を有する悪性神経膠腫を特異的に同定しうる蛍光プローブは診断および手術に有用であるため、U87細胞株を用いてin vitro実験を行った。U87にEGFRvIII変異を遺伝子導入した細胞株U87ΔEを用い、臨床検体の解析で有用性が示唆されたプローブをdishに加え、蛍光強度を観察した。さらにU87とU87ΔEのライセートを用いて蛍光強度の時間的推移を解析し、有意な差が見られるプローブを検索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の症例蓄積が予想を下回り、今年度も悪性神経膠腫患者から得られた腫瘍検体を用いて解析を続ける必要があったため、研究に遅延が続いた。今年度の下半期の手術症例数がまた通年を大きく下回ったため、有用と思われるプローブ候補のさらなる絞り込みができなかった。 また、前述のEGFRvIII変異を有する悪性神経膠腫を特異的に同定しうる蛍光プローブを選定すべく、in vitro実験を新規に行ったため、研究に3~4ヶ月の遅れを生じた。
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今後の研究の推進方策 |
悪性神経膠腫に対し有用と思われる蛍光プローブ候補はいくつか選定されたため、今後の手術症例で前方視的検証を行っていく。どのプローブにしても、全症例で正常脳との対比において腫瘍を特異的に認識するわけではなく、それぞれのプローブについてそれが有用であった症例と有用でなかった症例とを分け、臨床情報の比較検討を行う必要がある。標的酵素タンパクが同定されているプローブに関しては、腫瘍検体での活性をウェスタンブロッティング等で検証する。 低悪性度神経膠腫あるいは退形成性神経膠腫にはIDH遺伝子変異を高率に認めるが、これらに対しては5-ALAが総じて無効である。U87にIDH1変異を遺伝子導入した細胞株を用いて、低悪性度神経膠腫を認識しうる蛍光プローブの検索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の症例蓄積が予想を下回り研究に遅延が生じたため、選定したプローブ候補のさらなる絞り込みにも遅れが生じている。 また、EGFRvIII変異を有する悪性神経膠腫を特異的に同定しうる蛍光プローブを選定すべく、in vitro実験を新規に行ったため、研究にさらなる遅れを生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
悪性神経膠腫に対し有用と思われる蛍光プローブ候補はいくつか選定されたため、今後の手術症例で病理学的検討と併せて前方視的に検証していく予定である。標的酵素タンパクが同定されているプローブに関しては、腫瘍検体での活性をウェスタンブロッティング等で検討する予定である。これらの実験のために試薬等がさらに必要になる。 低悪性度神経膠腫に有用な蛍光プローブを探索する予定のため、細胞株の培養などに培地や血清などが必要になる。
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