研究課題
脳腫瘍幹細胞が化学療法や放射線療法に対して耐性をもち、治療の重要な標的として認識されはじめていることから、本研究は脳腫瘍幹細胞を制御するmicroRNA(=miRNA)とその標的分子の単離・同定を進めることにより、悪性脳腫瘍の治療抵抗性機序を解明し、更にはmiRNAを用いた新規治療法による治療抵抗性克服を最終的な目的とする。この目的を達成する為、平成27年度は膠芽腫患者手術検体からの脳腫瘍幹細胞の樹立を行った。膠芽腫患者の手術摘出標本のうち病理診断後の残余を研究用試料として用い、Neurosphere法による培養で脳腫瘍幹細胞を分離し、特異的に増幅させた。一方、血清を加えた通常の培養液での細胞培養も行い、これをコントロール脳腫瘍細胞 (非幹細胞)とした。樹立した膠芽腫患者由来の脳腫瘍幹細胞をマウス脳内に移植し、腫瘍形成能力をもつことを確認し、さらに病理標本を作成して膠芽腫の特徴(核分裂像、偽柵状配列、血管内皮増生、壊死像等)を組織学的にも保持していることを確認した。今後、これらの樹立した脳腫瘍幹細胞とコントロール脳腫瘍細胞(非幹細胞)を用いて、miRNA arrayによる発現スクリーニングと合成ds-miRNAライブラリーを用いた機能的スクリーニングによるmiRNAプロファイリングを行い、脳腫瘍幹細胞を規定するmiRNAを同定し、脳腫瘍幹細胞を制御する分子機構、すなわち治療抵抗性制御機構を解明していく予定である。
3: やや遅れている
当院における膠芽腫手術症例が平成27年は7件と例年に比べて少なく、かつ脳腫瘍の局在により生検にとどまった症例が3例含まれており、膠芽腫手術検体からの脳腫瘍幹細胞の樹立件数が予定より遅れてしまったため、進捗状況に遅れが生じた。
平成27年度に樹立した脳腫瘍幹細胞とコントロール脳腫瘍細胞(非幹細胞)を用いて、平成28年度はmiRNA arrayによる発現スクリーニングと合成ds-miRNAライブラリーを用いた機能的スクリーニングによるmiRNAプロファイリングを行う予定である。これらのスクリーニングの結果を統合的に解析し、脳腫瘍幹細胞を規定するmiRNA (以下miRXとする) を同定する。平成29年度には、同定されたmiRXの標的分子の探索を行うことにより、治療抵抗性機序の解明を行う。また、miRXとその標的分子の発現が実際の膠芽腫患者の臨床経過と相関があるかどうかを明らかにする。脳腫瘍幹細胞で発現抑制が見られるmiRXは、miRXを量的に補うことで、miRNA replacement therapyとして治療薬として応用可能と考えられるため、脳腫瘍幹細胞で発現が低下しているmiRXを平成30年度に行うin vivo機能解析へ進む候補として選択する。平成30年度には脳腫瘍幹細胞にmiRXを発現誘導させることで、miRXが悪性脳腫瘍の発生、増殖能、化学療法に対する治療抵抗性に影響を与えるかどうか、in vitro, in vivoで解析する。
研究を更に進めるために、細胞培養関連試薬を追加で購入したかったが、残額が334円と少額でありこの金額で購入できる必要試薬はなかった為。
平成28年度の消耗品費(細胞培養関連試薬、一般試薬)として使用する予定である。
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Molecular Therapy
巻: 23 ページ: 235-243
10.1038/mt.2014.214