悪性脳腫瘍の治療抵抗性機序を解明し、悪性脳腫瘍に対する新しい治療法を開発することを目的に、脳腫瘍幹細胞を制御するmicroRNAの同定を本年度も継続した。脳腫瘍(膠芽腫)患者の手術摘出標本のうち病理診断後の残余を用い、Neurosphere法による培養で脳腫瘍幹細胞を樹立した。樹立した脳腫瘍幹細胞を用いてmicroRNAプロファイリングを行った。microRNA arrayで脳腫瘍幹細胞で過剰発現または発現抑制がみられるmicroRNAを複数選出した。脳腫瘍幹細胞で発現抑制が見られるmicroRNAは、microRNAを量的に補うことで、microRNA replacement therapyとして治療薬として応用可能と考えられるため、脳腫瘍幹細胞で発現抑制されているmicroRNA7(miR7)に着目して解析を行った。脳腫瘍幹細胞にmiR7を導入すると、脳腫瘍幹細胞の増殖が抑制された。また、miR7を導入した細胞では、細胞増殖に関わる EGFRやpAKTの発現が低下し、death receptorの発現が上昇することを見出した。Death receptorへの結合を介して腫瘍細胞特異的にapoptosisを誘導するサイトカインであるTRAILは膠芽腫細胞株の増殖を抑制することを過去の研究で示したが、多くの脳腫瘍幹細胞はTRIAL抵抗性である。そこで、脳腫瘍幹細胞にmiR7を導入しTRAILを作用させると、TRAIL抵抗性の脳腫瘍幹細胞にアポトーシスが誘導された。脳腫瘍幹細胞を移植した脳腫瘍マウスモデルで、miR7とTRAILによる治療を行ったところ、腫瘍縮小と生存延長効果を示した。以上よりmiR7はcell proliferationやapoptosisのpathway に働き、microRNAとTRAILによる治療が、悪性脳腫瘍の治療抵抗性を克服しうる可能性が示された。
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