これまでに行った我々の研究においてWHOグレード2および3に相当する神経膠腫は、遺伝子異常に基づいて明確な3タイプに分類され、それぞれ異なった分子生物学的特徴や臨床経過を示すことが明らかになった。2016年のWHO脳腫瘍分類の改定において、神経膠腫に遺伝子診断が用いられることになった。しかし、段階的に悪性化する本疾患において悪性化のメカニズムは十分に解明されていない。本研究では次世代シークエンス技術を用いて高悪性度化のメカニズムを解明する。 700例を超える網羅的遺伝子異常解析の結果を用いて臨床データ・予後データを加え解析した。その結果、遺伝子異常に基づいた各疾患群において複数の遺伝子異常が予後不良に関与していることを同定した。同一患者からの複数回の検体採取を行い遺伝子変異解析を行い、進化系統学的手法を用いて解析を行うと、これらの遺伝子異常はいずれもより悪性化した後の腫瘍内でのみ確認できることが明らかになった。さらに、初発時の段階でごく一部の腫瘍にのみこれらの遺伝子異常が存在している症例が同定され、このような患者の生命予後も他の患者に比べて悪いことが明らかとなった。 本研究により同定された遺伝子異常を用いてさらにこの疾患を分類することにより、より正確な予後評価が可能となる。現在、WHOグレード2および3に相当する神経膠腫に対する治療は様々であり施設・主治医により異なるのが現状である。より正確な予後予測が可能になるため、適切な治療の選択に繋がると考えられる。
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