研究課題/領域番号 |
15K19973
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
小川 大輔 香川大学, 医学部附属病院, 病院助教 (70524057)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | microRNA / グリオーマ / 薬剤感受性 / AMPK / テモゾロマイド / miR-451 / Oct1 |
研究実績の概要 |
本研究計画ではmicroRNA-451(miR-451)がAMPKを抑制することで、脳腫瘍のストレス環境への適応性を阻害し、より多くの細胞をア ポトーシスに導くことにより、テモゾロマイド療法(TMZ)や放射線療法(以下、併せて”治療”)に対する感受性を向上させること を目的としている。低グルコース等の代謝性ストレス環境下においてAMPKが活性化することは、細胞を生存させる上で必須であるが、 最近、治療によっても腫瘍細胞のAMPK上昇が示され、治療に対する生存にも関与していると着想した。このことから、miR-451が治療 後のAMPK活性化を抑制し、脳腫瘍の治療感受性を向上させることで、神経膠芽腫患者の生命予後を改善することを目指す。 本研究計画では、miR-451が治療感受性を向上させるか検討し、その発現を制御する転写因子を同定したのち、in vivoにおいても同様 の結果が得られるか調べる。進め方としては、以下とする。 1.MiR-451、AMPKの発現・抑制系を用いて、治療感受性を調べる。2.発現制御因子のPPARγやOct1がプロモーターとして働いているか 発現・抑制系を用いて確認する。3.ChIP assayを用いて、発現制御因子がmiR-451の遺伝子上流に結合しているか確認する。4.高血糖 あるいは低血糖マウスを作成し、miR-451の脳における発現量を比較する。5.MiR-451安定発現細胞株を樹立する 6.安定発現細胞株を脳内に移植し、in vivoにおけるmiR-451の作用を調べる。7.安定発現細胞株を脳内に移植し、TMZをマウスに投与 し、治療感受性が向上しているか確認する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年報告した、Oct1がmiR-451の発現調節因子となっている可能性について、ChIP assayなどを用いて、Oct1がmiR-451のプロモーターとして働いていることがわかった。具体的にはAMPKがリン酸化され、活性化すると、Oct1をリン酸化し、不活化され、miR-451のプロモーター領域からはずれ、miR-451の発現は抑制されるネガティブフィードバックが存在することが明らかとなった。miR-451はCAB39を介して、AMPKをネガティブフィードバックしていることがすでに報告されていることから、miR-451とAMPKの間には対向式の相互なネガティブフィードバックが存在することが明らかとなった。これは、高糖環境において、miR-451の発現が上昇すると、AMPKが抑制され、さらにmiR-451の発現が上昇する、といった自己相乗効果があることを示す結果であった。これをCell reportに報告した。脳腫瘍モデルにおいては、腫瘍の増殖速度が速いため、血管新生が追い付かず、虚血に陥った腫瘍細胞は低栄養下にあり、この状態において腫瘍はmiR-451の発現を抑制することで、エネルギーを温存し、遊走能を活性化することで、よりよい環境に浸潤し、浸潤先の高栄養環境では反対にmiR-451を発現することで、エネルギーを活発に代謝し、増殖することで、生存するのに重要なキースイッチであることが示唆された。今後もこの腫瘍の生存に重要な機構を解明していく。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoにおけるmiR-451の動態はほとんど知られていないため、まず糖依存性を確認する。次にmiR-451安定発現細胞株を樹立した後、安定株を脳内に移植し、in vivoにおけるmiR-451の増殖能、遊走能を調べる。最後に安定株を脳内に移植したマウスにTMZを投与し、治療感受性が向上しているか確認する。具体的には以下のようにする。 1.ストレプトゾトシン(STZ)は膵臓のβ細胞特異的に破壊する作用を持ち、糖尿病モデルマウスを作成するのに利用されている(Benette, 1972, Science)。これと持続インスリンポンプを用いて、それぞれ高血糖と低血糖マウスを作成し、その脳におけるmiR-451の発現量を比較することで、in vivoにおいても糖依存性にmiR-451の発現がコントロールされていることを示す。 2.これと同様に、マウスに対し、TMZを5mg/kgの割合で毎日1週間続けて腹腔内投与するか、放射線を毎日2Gy一週間、あるいはその両方のストレスをかけて、脳におけるmiR-451の発現量を比較することで、in vitroと同様に代謝性ストレスにおいてもmiR-451の発現量が変化することを観察する。 3.レンチウィルスを用いてmiR-451を安定発現する安定細胞株を樹立して、免疫不全マウス(Athmic nude)の脳内に移植し、miR-451がin vivoにおいて脳腫瘍細胞に与える影響(増殖能、遊走能、アポトーシス)について検討する。 4.また、同モデルでPBS投与群とTMZ腹腔内投与群とに分け、miR-451がTMZの感受性をin vivoにおいても向上させることを示す。
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