研究課題
超高齢化社会になり、認知症への対策が重要な課題となっている。最近、臨床的検討からレニン・アンジオテンシン(RA)系が認知症の発症・進展に関与しているという報告がされている。これまで我々は、RA系の脳障害について検討、報告してきた。特にアンジオテンシンII2型(AT2)受容体は、1型(AT1)受容体による組織障害作用に拮抗し、脳保護効果を示すこと、またAT2受容体刺激薬が野生型マウス(WT)の認知機能を向上させることを報告してきた。また、最近血管性認知症モデルにおいてもAT2受容体刺激薬が脳血流量の減少や炎症性サイトカインの増加を抑制することから認知機能低下を予防することを報告してきた。一方、神経疾患の発生にエピジェネティクスの異常が関与していることが報告されており、脳においてはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)2が認知機能に関わっていることが報告されている。HDAC2はBDNFやFosなど記憶に関わる遺伝子の発現を制御することが報告されており、HDAC2過剰発現マウスでは認知機能の低下、欠損マウスでは認知機能が向上することが報告されている。そこでRA系、特にこれまで我々が注目してきたAT2受容体とHDAC2の関連について検討した。WTとAT2受容体欠損マウス(AT2KO)における海馬HDAC2の発現を検討したところ、10週齢の時点では両マウスで発現に変化はなかったが、20週齢AT2KOにおいて同週齢のWTに比べて増加しており、脳内AT2受容体がHDAC2の発現に関与していることが示唆された。次にWTおよびAT2KOに両総頸動脈狭窄術(BCAS)を行い、血管性認知症モデルを作成、その後HDAC阻害剤を投与することで認知機能への影響を検討したところ、BCASにより認知機能は両マウスで低下しており、HDAC阻害剤で改善していたが、その改善効果はAT2KOでWTに比べて強かった。
2: おおむね順調に進展している
脳内AT2受容体とHDAC2の関連について、WTおよびAT2KOを用いて検討した結果、10週齢の時点では両マウスで海馬HDAC2の発現は変化していなかったが、20週齢のAT2KOにおいて同週齢のWTに比べて増加していたことから、脳内AT2受容体がHDAC2の発現に影響していることが示唆された。次にAT2受容体とHDAC2の認知機能への影響について、血管性認知症モデルマウスを作成して検討した。10週齢のWTおよびAT2KOの両総頸動脈に内径0.18mmのマイクロコイルを留置する両総頸動脈閉塞術(BCAS)を施行し血管性認知症モデルマウスを作成した。BCASの4週間後から2mg/kg/dayでHDAC阻害剤を腹腔内に2週間投与した。BCASから6週間後、モリス水迷路試験により認知機能への影響について検討した。WT-BCAS群はWT-sham群に比べてプラットフォームへの到達時間の遅延が認められたが、HDAC阻害剤投与群で改善していた。AT2KOも同様に、BCASにより認知機能が低下していたが、HDAC阻害剤投与により改善していたが、HDAC阻害剤による認知機能改善効果はWTへの投与に比べて増強していた。次に脳血流量をレーザードップラー血流計を用いて測定した。WT、AT2KOのshamの比較では脳血流量に有意差はなく、BCASによる低下も同程度であった。また、HDAC阻害剤の投与によっても血流量の改善は認められなかった。次に各群での海馬HDAC2の発現をウェスタンブロット法にて検討した。WT-shamに比べてAT2KO-shamで発現が増加傾向であったが有意差は認められなかった。BCASおよびHDAC阻害剤投与による発現変化は各マウスのsham群と変化は認められなかった。
WT-BCAS群に比べてAT2KO-BCAS群においてHDAC阻害剤の改善効果が強かったことから、HDAC2によって発現が制御されているNMDA受容体、BDNFの海馬での発現についてメカニズムとして検討した。NMDA受容体サブユニットはWT-shamに比べAT2KO-shamで増加傾向があったが有意差は認められなかった。WTにおいてBCASおよびHDAC阻害剤による発現変化は認められなかった。AT2KOではBCAS群で低下傾向があったが有意差は認められなかった。また、HDAC阻害剤ではその発現に変化は認められなかった。また、BDNFの発現はWTおよびAT2KOのBCAS、HDAC阻害剤で変化が認められなかったことから、次に血管性認知症モデルで報告されている炎症性サイトカインの発現について検討を進めていく予定である。また、RA系とHDAC2との関連について、心臓での報告がされている。アンジオテンシンII投与による心肥大がHDAC阻害剤により抑制、また、AT1受容体刺激がHDAC2の発現増加・活性化することが報告されている。しかし、脳においてのRA系とHDAC2の影響については不明である。これまで我々はRA系が亢進しているツクバ高血圧マウスでは、10週齢時点ではWTと比較して認知機能に影響は認められなかったが、週齢が増加すると認知機能が低下することを確認、報告している。そのメカニズムとして、血圧の上昇、酸化ストレス、脳血流量の低下を報告しているが、HDAC2との関わりについては明らかになっていない。そこで、慢性的なRA系亢進によるHDAC2の発現などへの影響について、ツクバ高血圧マウスを用いて検討していく予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
Am J Hypertens
巻: 29 ページ: 54-62
10.1093/ajh/hpv072.
J Am Soc Hypertens
巻: 9 ページ: 250-256
10.1016/j.jash.2015.01.010.
J Renin Angiotensin Aldosterone Syst
巻: 16 ページ: 749-757
10.1177/1470320315573680
Eur J Pharmacol
巻: 762 ページ: 293-298
10.1016/j.ejphar.2015.05.059
巻: 印刷中 ページ: 印刷中