研究課題/領域番号 |
15K19986
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田口 祐 東京大学, 医科学研究所, 助教 (20549472)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 破骨細胞 / 骨代謝 / RANK / 骨免疫 |
研究実績の概要 |
造骨活性を持つ骨芽細胞と共に骨吸収活性により体内骨量の維持と骨代謝に働く破骨細胞は、骨粗鬆症や癌骨転移に関与することが知られており、その分化・活性化メカニズムの解明が新規治療方法の開発のために待たれている。破骨細胞は、前駆細胞上に発現している受容体RANKにリガンドRANKLが結合することで細胞内シグナル伝達経路が活性化され、NF-kBやAP-1など様々な転写因子が活性化され、破骨細胞分化のマスター転写因子NFATc1が発現誘導されることで分化することが知られている。 本研究代表者は受容体RANKにおいて分化誘導に必須である機能領域HCRを同定しており、このHCRの機能と分子メカニズムを明らかにするためにHCRに会合する分子の同定を試みた。本年度においてHCRをbaitとしてYeast-two-hybrid screeningを実施したところ、14種の候補遺伝子を同定することができたため、次年度ではこれら候補遺伝子が破骨前駆細胞内でもHCRに結合するか、そして破骨細胞分化誘導に関与するかを調べる予定である。また、本研究代表者は以前にHCRが何らかの翻訳後修飾を受けていることを示唆するデータをwestern blotting法による解析から得ていたが、本年度ではその修飾がUb化やSUMO化ではないことを明らかにしたため、次年度は糖鎖修飾の可能性を検討する。 破骨細胞分化のメカニズムは未だ全容が解明されていないため、本研究代表者は以前に破骨細胞分化に関与する遺伝子を網羅的に探索する目的でマイクロアレイ解析を実施しており、いくつかの候補遺伝子を同定していた。本年度はそのうちの3種の遺伝子をそれぞれ過剰発現させることで破骨細胞分化に影響が有ることを明らかにしたため、次年度ではその3種の遺伝子の破骨細胞分化における機能を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、破骨細胞分化の分子メカニズムを明らかにすることと、明らかになった知見を応用して骨疾患に対する新規治療方法を開発することである。特に、本研究代表者が以前に見出した受容体RANKのHCRドメインは破骨細胞分化に必須な領域だが、その分子メカニズムはほぼ未解明であった。申請時において本年度は(1)Yeast-two-hybrid法にてHCR結合タンパク質を同定すること、(2)HCRから発生する細胞内シグナル伝達経路を同定すること、(3)HCRにおける翻訳後修飾がUb化・SUMO化・リン酸化・糖鎖修飾であるかを検討すること、(4)HCRをペプチド断片として破骨前駆細胞内へ導入して分化を制御することを計画していた。(1)に関しては候補遺伝子を同定して既に機能解析に取り掛かっており、(2)に関してはHCRがNFATc1を活性化する新規メカニズムを明らかにしており、次年度の計画分の実験が進行している。しかし、(3)はUb化・SUMO化・リン酸化は検討したが、糖鎖修飾の検討ができておらず、(4)はペプチド断片の導入により分化制御には成功したが、そのメカニズムの確認と解明には至らなかった。すなわち、申請時の計画の全てにおいてある程度の進行が見られたが、申請時の予定よりも進んだものと予定よりも遅れているものが混在しており、そのため研究計画は「おおむね進行」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は破骨細胞分化の分子メカニズムを明らかにすることが目的である。本年度、Yeast-two-hybrid法を用いて受容体RANKのHCRに会合するタンパク質の候補を同定した。次年度はこれら候補遺伝子の破骨細胞分化における機能を解析する。また、本研究代表者が以前に実施したマイクロアレイ解析により破骨細胞分化に関与する可能性の有る遺伝子を複数同定しているが、これらの遺伝子も破骨細胞分化における機能を解析する予定である。それぞれの遺伝子を破骨前駆細胞に強制発現して分化への影響を調べるとともに、それぞれの遺伝子における既報の機能から分子メカニズムを推測し、それらを検証する。また、RANKにおける翻訳後修飾について、申請時の計画通りに糖鎖修飾の可能性を検討するとともに、MS解析を応用して修飾基の同定を検討する。また、上記候補遺伝子からHCRの機能発現に関与する可能性が高いものを優先して選び、それぞれの遺伝子機能産物が破骨細胞分化に与える影響を検討する。HCRをペプチド断片として破骨前駆細胞内に導入することで分化を制御できることを明らかにしたため、申請時の計画通りに次年度では骨疾患モデルマウスへ投与して治療効果を検討する。概ね申請時の計画通りに進行しているため、次年度も計画に沿って実施する方策である
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね申請時の計画通りに研究が進行しているが、いくつかの遅延が生じたために実施できなかった実験が有り、予定していた予算を使用しなかったために次年度使用額が生じた。Yeast-two-hybrid法を用いてHCRに会合するタンパク質を探索して候補遺伝子を同定したが、酵母を用いた実験系を導入するにあたり実験方法(培養方法・遺伝子導入方法・酵母からの核酸抽出方法)の習得と条件検討に予定以上に時間を要した。そのため、同定した遺伝子の機能解析までは実施できず、そのために計上した予算額を消費できなかった。また、HCRをペプチド断片として前駆細胞に導入して破骨細胞分化を人為的に制御することを目指したが、ペプチドの入手に予定以上に時間が掛かってしまい、その後の解析を十分に進めることができなかったために計上していた消耗品を購入しなかったため、予算額分を消費できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在のところ、概ね申請時の計画に沿って実験が進行している。本年度に実施が遅れてしまった研究計画は次年度に実施する予定であり、使用する消耗品を次年度に購入する予定である。HCR機能発現に関与する候補遺伝子の解析に必要な消耗品を購入して実験を進行する。また、HCRに対応するペプチドによる破骨細胞分化の人為的抑制方法を開発するにあたり、骨疾患モデルマウスを作出してペプチドを投与する予定で、その作出と治療効果の評価にかかる消耗品を購入する。他は申請時の計画通りに使用する。
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