研究課題/領域番号 |
15K19992
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
生田 国大 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (40732657)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 癌 / 細胞・組織 / 肉腫 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)におけるヒアルロン酸の役割を調査し,ヒアルロン酸合成阻害薬である4-Methylumberiferone(MU)を用いたヒアルロン酸制御がMPNSTにおける腫瘍原性に及ぼす効果を評価することで、従来の治療法とは異なるヒアルロン酸をターゲットとした新規治療法を開発することである。平成28年度の研究実績としては、in vivo passageによる腫瘍細胞継代を行い、ヒトMPNST細胞株(sNF96.2、sNF02.2)による皮下移植マウスモデルを作製できた。この継代法によりマウスへのsNF96.2生着が安定したため、MUによる腫瘍増殖の抑制効果を実証することができた。さらにin vitroにおいて、siRNAによるCD44 knockdownとMU投与が相加的な抗腫瘍効果を示すことを実証した。これらの結果を合わせて、英文雑誌へ投稿し掲載された(Ikuta et al. Antitumor effects of 4-methylumbelliferone, a hyaluronan synthesis inhibitor, on malignant peripheral nerve sheath tumor. Int J Cancer 140 469-479, 2017)。 MPNSTの半数は神経線維腫症1型患者から発生するとされている。当院では2015年から神経線維腫症1型患者の診療ネットワークが運用されており、他院から神経線維腫症1型を基盤としたMPNST患者の紹介症例が増えている。これら患者の生検、手術時に得られた検体を用いてヒアルロン酸結合タンパク染色、ヒアルロン酸合成酵素による組織染色を実施して良悪性の鑑別に有用な所見や染色強度、および臨床成績との関連の調査を継続しデータを蓄積している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MUの抗腫瘍効果について、sNF96.2およびsNF02.2両方のin vivoモデルでの評価を計画していたが、モデルが確立できたsNF96.2細胞株1種のみでの評価にとどまっている。未だ他のMPNST細胞株(sNF02.2:ATCC肺転移細胞株、NMS2:理研原発由来細胞株)での異種移植モデルを確立できていない。MUのMPNSTに対する抗腫瘍効果を広く評価するために、これら細胞株の異種移植モデルが必要と考える。Ex vivo実験では、臨床検体の収集は順調であるが、免疫染色、特にヒアルロン酸分解酵素が全例に対しては実施されていない状況である。全体として判断すると、実験計画自体はやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当教室にて保存している神経線維腫症1型とMPNST患者血清を使用し、外部委託によりヒアルロン酸濃度を測定する。得られたデータを健常成人における血清ヒアルロン酸濃度と比較し評価する。また、ヒアルロン酸,ヒアルロン酸合成酵素,ヒアルロン酸分解酵素の発現結果と各症例の臨床データ(年齢,性別,腫瘍サイズ,発生部位,発生深度,組織学的悪性度など)間の統計解析を行う。また生命予後、局所再発、遠隔転移についてKaplan-Meier法を用いて検討し、それぞれの発現の関連性についてLog-rank法にて統計学的解析を行う。実際に4-MUを臨床応用する場合,抗癌剤との併用療法となる可能性を念頭に置き、MPNST細胞株における4-MUとドキソルビシンの併用効果の確認をin vitro実験において実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下の2つの理由により、当初見込んでいた昨年度使用額に至らなかった。 1.MPNST皮下移植モデル確立に難渋したため、臨床検体を用いたex vivo実験の進捗に遅れをきたした。 2.すべての予定した実験の完遂前に、得られたデータによる論文作成を先行したため、積極的に学会参加や論文参照を行い、実験に遅れをきたした。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、他のMPNST細胞株による皮下腫瘍マウスモデル作製のためのマウス購入費、飼育費および組織染色に必要な各種抗体の購入のために研究費を使用する。今後、研究結果の発表に関連する学会および論文校正費用、また研究に関連する書籍の購入費用に研究費を使用する。
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