近年骨軟部腫瘍の治療成績は、抗腫瘍薬治療の進歩、画像診断技術の進歩、手術手技の改良など集学的治療法の進歩により大きく改善してきた。しかし、限局型の高悪性度軟部肉腫の累積5年生存率は依然60%程度であり、 約半数の症例は肺転移をはじめとする遠隔転移をきたし予後不良の経過をとる。従ってこれら高悪性度骨軟部肉腫に対する、低侵襲で有効かつ安全な治療法の開発が強く望まれている。近年、がんに対する免疫療法が盛んに研究・臨床応用されており、持続的治療効果が示されてきた。肉腫の分野においても、新たな治療法として期待されている。しかし、稀な腫瘍である軟部腫瘍のがん精巣抗原(NY-ESO-1、MAGE-A4)や免疫チェックポイント機構(PD-L1)などの基礎的研究は、未だ十分に行われていない。そこで我々はまず、軟部肉腫患者の手術時臨床検体を用いて、これら腫瘍免疫関連タンパクの発現に関する、臨床病理学的検討を計画した。軟部肉腫の手術時患者検体を用いてPD-1、PD-L1を、さらに滑膜肉腫患者検体を用いてNY-ESO-1の免疫組織化学的染色法を行い、評価した。結果、PD-L1は軟部肉腫においても発現していることが分かった。さらに、PD-L1陽性の軟部肉腫は、予後不良の傾向にあった。また、NY-ESO-1は、滑膜肉腫において高発現していた。しかし、予後などの臨床成績との関連性を見出すことはできなかった。これにより、PD-L1陽性軟部肉腫において抗PD-L1抗体を用いることで抗腫瘍効果が期待できる可能性を見出した。さらに、MAGE-A4の免疫染色を行うことで、MAGE-A4が滑膜肉腫に高発現していることを見出し、滑膜肉腫においてがん精巣抗原であるNY-ESO-1、MAGE-A4を標的とするがんワクチンや腫瘍特異的T細胞輸注療法の良い分子標的となりうる可能性を見出した。
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