腱断裂や神経損傷などに伴う筋の不動化により、骨格筋内には脂肪細胞が浸潤する。脂肪細胞はサイトカインを分泌する内分泌器官としての役割があり、これらはアディポカインと呼ばれ慢性炎症に関与することが知られている。脂肪変性の分子メカニズムには未知の部分が多く、詳細な検討はなされていない。アディポカインの中でAdiponectinの作用に注目し、筋肉内脂肪変性や慢性炎症への影響について検討することを目的とした。 12週齢のSDラットを使用した。腱断裂モデルとして、右アキレス腱を切離し、5mm欠損を作成した。一方、右大腿後面で坐骨神経を血管縫合用のクリップにより5分間圧挫し、神経損傷モデルを作成した。両群で腓腹筋について分子生物学的、組織学的に評価し、対照群と比較検討した。 筋湿重量は、腱断裂群、神経損傷群でともに対照群と比較して有意に低下していた。real-time PCRでは、両群で脂肪分化マーカーであるC/EBP、PPARγの有意な発現増加を認めた。炎症性サイトカインであるIL-6は、両群で発現上昇の傾向を認めていたが、神経損傷群でのみ有意な発現増加を認めた。組織所見として、両群において筋内脂肪変性を認めていた。免疫組織染色においては、Adiponectinの発現は神経損傷群で低下していたがその受容体であるAdipoR1においては明らかな差は認めなかった。 ラット腱断裂及び神経損傷により、腓腹筋の筋湿重量低下および脂肪分化マーカー、炎症性サイトカインの上昇を認め、筋肉内脂肪変性及び慢性炎症を来たすことが示唆された。昨年度の研究成果として、筋腱細胞におけるAdiponectinの抗炎症作用が認めており、神経損傷モデルで筋肉内Adiponectinの低下を認めた。腱断裂や神経損傷による筋肉内脂肪変性及び慢性炎症からの回復、治癒過程におけるAdiponectin発現の評価が必要である。
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