研究実績の概要 |
変形性膝関節症(膝OA)の多岐にわたる分子レベルの病態の理解はいまだ乏しく, 病態の主座である軟骨変性のみでなく, 半月板・軟骨下骨・骨棘・滑膜等にも焦点をあて研究する必要性が求められている. 我々は, 滑膜に発現するパールカンに焦点をあて, その発現が欠損すると滑膜間葉系細胞(MSCs)から軟骨への分化を経て, 骨棘へ分化する過程の初期段階が抑制されることをin vivo, in vitroにおいて示してきた. しかし, 滑膜のパールカンの膝OAの骨棘形成過程にはいまだ不明な点が残る. 本研究の目的は, 膝OAに対するパールカンの治療応用へ向け,滑膜MSCsから軟骨分化を経て骨棘形成に至る過程でのパールカンの作用機序の解析することである. 平成27年度は, 関節内では軟骨にのみパールカンを発現し,滑膜にはパールカンを発現しないマウス(Hspg2-/-Tg)と同腹のパールカン野生型マウス(WT)・対照マウスを用いて実験を行った.これらマウスより我々が開発した方法により滑膜を採取し,まず, 形態学的解析を光学顕微鏡を用いて行った.Hspg2-/-Tg滑膜と対照滑膜で光学顕微鏡を用いたその形態に差はなかった. 次に, Hspg2-/-Tgと対照マウスから採取した滑膜をDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析した. Hspg2-/-Tg滑膜において, 対照滑膜の2倍以上発現の亢進している2遺伝子を検出した. 平成28年度は, パールカン欠損滑膜の形態学的解析を電子顕微鏡で行い, 3次元培養を用いて, 軟骨分化過程の誘導後3h, 12hでの遺伝子発現に関してDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析する. また, DNAマイクロアレイにて検出した遺伝子の確認とその上流および下流シグナル,タンパクレベルの表現型について解析を滑膜培養細胞およびマウス膝OAモデルを用いて行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度に予定していた,パールカン欠損滑膜の電子顕微鏡での形態解析であるが, その固定や評価切片の準備において条件の調整が必要となったため解析結果の提示に時間を要しているため実験に遅れを生じている. また, 軟骨分化誘導後のDNAマイクロアレイ解析も予定していたが, パールカン遺伝子改変マウスの供給が実験設備の改修や培養装置の感染による滑膜細胞の培養の段階で遅れが生じたため, 解析に遅れを生じている. 現在培養に関する問題は解決しているため, 今後実験は進むものと考えている. また, DNAマイクロアレイの受託サービスを利用することにより実験の推進を図ることを計画している.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は, まず, パールカン欠損滑膜の形態学的解析を電子顕微鏡で行っていく. 次に, 3次元培養を用いて, 軟骨分化過程の誘導後3h, 12hでの遺伝子発現に関してDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析する. これは, 解析受託サービスの利用も検討している. また, 平成27年度の実験であるDNAマイクロアレイにて検出した遺伝子の発現の確認とその上流および下流シグナル,タンパクレベルの表現型について解析を滑膜培養細胞およびマウス膝OAモデルを用いて行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の実験計画の遅れのため, その電子顕微鏡を用いた形態解析とDNAマイクロアレイに関わる費用の支出が行われていないため, 次年度の使用額が生じた. また, 次年度にまたがる学会に出席のため, 次年度使用額が生じた.
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