研究課題/領域番号 |
15K20022
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
田中 信帆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), 政策医療企画部, 研究員 (60530920)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 関節炎 |
研究実績の概要 |
MRIを用いた近年の臨床研究の結果から、滑膜病変が変形性関節症(OA)の臨床症状ばかりか、OAの進行とも深く関係していることが明らかにされてきた。しかしOA関節においてどのような機序によって滑膜病変とOAの進行、すなわち軟骨の変性・消失が関連しているのかはいまだに解明されていない。本研究の目的は多くの膝OAの症例から治療時に採取された関節液の中から、採取前後に撮影された膝関節の単純Xpの経時的変化をもとに、関節裂隙狭小化が進行している時期に採取された関節液と、進行の見られない安定した時期に採取された関節液を取り分け、この二群の間で関節液を様々な手法で比較解析することによって滑膜に由来してOAの病態を進行させる因子を明らかにしようとするものであった。関節液の解析にはLuminexあるいはELISAを用いた既知の様々なタンパク因子の解析に加え、エクソゾームに含まれるmicro RNA、non-coding RNAの解析も行い、見出されたタンパク因子あるいは核酸についてはその機能を一次培養あるいは器官培養された軟骨細胞において確認することまでを研究の範囲としている。本研究の結果は臨床的にはよく知られていながらいまだに明らかとなっていない滑膜病変と軟骨変性との関連について、関節液の解析を通じて新たな側面から解析を試みるもので、その結果はヒト検体の解析に基づくものであるゆえに治療法の開発にも直接的に役立つ可能性があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の平成27年度にはレントゲンの所見に基づいて、まず関節裂隙狭小化が進行しているときに採取された関節液を16症例16検体(進行群)、関節裂隙狭小化が進行していない時点で採取された関節液16症例16検体を選択した(非進行群)。前者では関節裂隙狭小化は1年あたりにして平均0.31 mm(0.2~0.7 mm/year)であるのに対して、後者については、全例で関節裂隙の狭小化は認められなかった。当初の研究計画では抗体アレイによる解析を行って進行群と非進行群の間で濃度差のある因子を絞り込む予定であったが、合計32本の検体すべてについて抗体アレイを行うのは予算的に無理であり、一方、検体をプールして抗体アレイの解析を行った場合にはごく一部の検体で因子の値が高い場合などに結果の信頼性が不十分となる可能性が考えられた。このため計画を修正し、研究初年度の平成27年度には選別した検体について関節液中の様々な因子の濃度の比較をLuminexあるいはELISAによって直接的に行うこととした。進行群、非進行群の合計32検体について今までにLuminexによる既知のタンパク因子の解析の一部を終えている。以下に今までに測定を終えた21の因子を示した。 Aggrecan、Adiponectin、FGF basic、IL-1B、IL1ra、MMP-1、2、3、7、8、9、12、13、Leptin、S100A8、TNF-a、VEGF-A、VCAM-1、VEGF R2、uPA/Urokinase、Serpin E1/PAI-1 これらの中で進行群と非進行群の間で関節液中の濃度に有意の差がみられたものはMMP-1およびMMP-3の2因子だけであるが、この計測については現在もなお継続中であり、計測がすべて終了した段階で結果を照らし合わせて包括的な解析および結果の解釈を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目となる平成28年度には先に「現在までの進捗状況」の項で述べたタンパクレベルの解析を他の因子についてさらに進めるとともに、当初から予定していたエクソゾームの解析に着手する。エクソゾームからのRNAの抽出については我々の研究室において既に実験手法が確立されているので、先に選別された進行群、非進行群合計32検体からエクソゾームを分離してRNAを抽出する。次に抽出されたRNAを外部業者に受託して次世代シークエンシングによる解析を行い、2群間で量的に異なるmiRNA、non-coding RNAを見出す。この結果において、OAの病態を説明しうるmiRNA、non-coding RNAを選びだして、定量PCRを用いた解析によって次世代シークエンシングの解析結果を確認する。 以上の解析によって、進行群と非進行群の関節液に異なる濃度で存在するタンパク因子、miRNA、あるいはnon-coding RNAが見いだされると考えられる。これらの因子についてさらに進行群、非進行群の定義に当てはまる検体を各16検体程度選び出し、先に選択した検体についてと同様、進行群と非進行群の間で関節液中の濃度差が確認できるかを検証する。 以上の解析の結果から、進行群、非進行群の間で関節液中に濃度差があることが確認できた因子について、一時培養軟骨細胞あるいは器官培養で維持された軟骨細胞を用いてその機能を検討する。タンパク因子の場合には作用が既知のものである可能性が高いが、見いだされた因子の機能や特徴を十分考慮しながら軟骨変性における意義付けを行っていく。miRNAやnon-coding RNAについては機能が道のものである可能性が高く、軟骨細胞に対する遺伝子導入などの実験を通じて軟骨変性における意義を注意深く見極めていく。この実験では一時培養軟骨細胞に対するLNA化されたoligoRNAの使用も考慮される。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度には検体の選択と選択した検体のLuminexによる解析に予想以上に時間を要し、エクソゾームの解析が行えなかったことから、その解析に要する費用を次年度に繰り越すこととした。Luminexによる解析ではそれぞれの因子について適切な希釈濃度の設定に予定より時間と労力を要し、最終的に上述の因子についてのみ結果が得られたところで平成27年度の研究を愁傷せざるを得なかった。エクソゾームの解析ではLuminexでの解析のように検体の希釈が問題となる可能性は小さく、予定通り解析が行えるものと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究の項と重複するが、平成28年度に予定される解析を以下に述べる。まず平成27年度に得られたLuminexの解析結果の検証を行う。先述のようにこれには平成28年度に改めて選別された32本の関節液検体が用いられる。第二にはエクソゾームの解析を行う。平成27年度に選択された関節液検体からRNAを抽出し、外部業者に受託して次世代シークエンシングによる解析を行って、二群間で量的に異なるmiRNA、non-coding RNAを見出す。この結果をもとに、定量PCRを用いた解析によって次世代シークエンシングの解析結果を確認する。第三には以上の解析で選びだされた因子、RNAあるいはnon-coding RNAについて、その機能を培養軟骨細胞あるいは器官培養で維持された軟骨細胞を用いて検討することである。以上の解析から滑膜に由来して軟骨変性を推し進める因子が見いだされることが期待される。
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