研究実績の概要 |
糖尿病は末梢代謝疾患のみならず,中枢神経疾患(学習障害・認知症・うつ病など)を合併することが臨床的に知られており,発症機序として海馬ニューロンを含めた中枢神経系シナプス伝達の機能不全が示唆されている.今回我々は、糖尿病モデルラットから摘出した海馬スライス標本を用い、糖尿病による全身麻酔作用修飾機序を検討した。《糖尿病モデルラット》糖尿病モデルラット(GK)は多遺伝子変異に基づくインスリン分泌不全およびインスリン抵抗性を示す2型糖尿病(NIDDM)のモデルで,4週齢以降は血糖値200mg/dl前後で推移する.対照群としてはウィスターラット(C群)を用いた.《脳スライス実験》8週齢のラットを麻酔した後、脳を摘出し海馬スライスを作製した。シャーファー側枝を電気刺激することにより,海馬CA1錐体細胞の集合電位(PS)を誘発した.また刺激電極を海馬白板(AH)に置き,抑制性介在ニューロンを活性化した.統計学的検定は,2-way ANOVAを用いた.《結果》海馬CA1を高濃度のチオペンタール(0.1 mM)で前処置し,PSをほぼ完全に抑制した.AHにトレイン刺激(200Hz, 5s)を与えると,Train-Induced Disinhibition(TID)によりPSはチオペンタール投与前値に回復する(2).TID後に再びPSが抑制されるまでの時間経過を解析した結果,GK群ではC群に比較してTIDが有意(P=0.0001, n=3)に遷延していた.《考察》TIDはシナプス前の抑制性伝達物質(GABA)の一時的な枯渇により生じるが,C群ではGABAの再取り込みにより再びPS抑制が認められるようになる.一方、GK群ではGABA recruitmentの何らかの障害によりシナプス前からのGABA放出が抑制され,TIDが遷延したと推察された.
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