平成27年度は、本研究の目的である「血中オキシトシン濃度と妊婦の帝王切開術後痛の回復との関連性」を明らかにするため、まず授乳回数と帝王切開術後痛の回復との関連性を検討した。平成28年度は、血液サンプルから血中オキシトシン濃度を測定し、それと帝王切開術後痛の回復との関連性について検討を進めた。 予備研究では、妊婦の開腹術後痛は、非妊婦の開腹術後痛と比較して、回復が早いという結果が得られていたが、その機序は不明であった。われわれは、この理由を、性ホルモンであるオキシトシンが下行性疼痛抑制系を介して鎮痛効果を発揮し、術後痛の回復を促進させるためではないかと仮説を立てた。これまでに取得した帝王切開術後妊婦15名のデータ解析から、授乳回数が多いほど体動時痛および創部の2次性痛覚過敏範囲の回復が早いという結果が得られた。しかし、血中オキシトシン濃度と体動時痛や2次性痛覚過敏範囲の回復には、正の相関が得られなかった。この結果は、授乳回数と帝王切開術後痛の回復とに関連があるとするこれまでのわれわれのデータを支持しないもので、血中オキシトシン濃度の測定時期や測定方法に修正が必要であることが示唆された。 そこで平成29年度は、血液中ではなく唾液中のオキシトシン濃度を測定を検討した。しかし、唾液中のオキシトシン濃度はばらつきが大きく、血中濃度と相関しなかった。さらにこれまで血中オキシトシン濃度の測定を依頼していた検査機関で、オキシトシン濃度測定を取りやめてしまった。別の測定機関を複数探したが、適切なものが見当たらず、本研究の遂行が年度途中で困難となったため、やむを得ず当初の計画を断念した。
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