平成27年度までに得た結果から、NOSs系完全欠損下でのテストステロン(男性ホルモン)の有無が脳梗塞病態に影響している可能性を考えた。NOSs系完全欠損マウスにおいてMCA閉塞によって誘導した脳梗塞の大きさはオス<メスであったので、平成28年度はMCA閉塞に先立って精巣を除去した場合にNOSs系完全欠損オスマウスにおいて脳梗塞が大きくなる、という仮説のもとに実験を行い、予想通り偽手術群に比して精巣摘除群で脳梗塞巣サイズが大きくなる結果が得られ、この結果はテストステロンの補充(徐放性チューブ埋め込み)により打ち消され、テストステロンの作用であることが確認された。これにより、NOSs完全欠損下では、テストステロンの保護効果があることが示唆された。 オスにおいて、野生型マウスとNOSs系完全欠損マウス間で、MCA閉塞処置後にどのような遺伝子発現の違いがあるのかを網羅的かつ定量的に調べる目的で、MCA閉塞から2時間後の脳検体を用いてRNA次世代シーケンサー解析を行った。ミトコンドリア機能不全および酸化ストレスのシグナルに2種間で差があり、NOSs系完全欠損マウスでは野生型マウスと比較し、これらのシグナルを抑制する遺伝子の動きを認めた。 平成29年度は病理学的解析として、MCA閉塞処置後に発生するフリーラジカルによるDNA傷害の程度を抗8-OHdG抗体を用いて定量評価しようと試みたが、非特異的染色所見があり、盲目的あるいは客観的評価で、種差を認めなかった。次世代シーケンサー解析を非脳梗塞半球においても行い、詳細に解析を進める計画はあるが、未実施である。以上、得られている成果について論文作成や学会発表など、学術公開に関する作業を進めた。
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