高齢手術マウスモデルを作製・確立した上で,まずはトランスクリプトーム解析の手法を用い、海馬におけるmRNAの変化を全網羅的に解析したところ、介入前後で著明に増減するものを標的遺伝子として選定することができた。 これらの解析結果より、高齢マウス海馬から抽出したmRNA由来の標的遺伝子をMapt (microtubule-associated protein tau)に決定した。 Mapt は大変興味深い遺伝子であり、加齢や神経変性疾患において、微小管での作用が指摘されているとされている。標的遺伝子としては妥当であると考えられた。 鎮静薬・麻酔薬として臨床使用されており、かつ抗炎症作用をもち、α2アドレナリン受容体アゴニストであるデクスメデトミジンの投与が、高齢マウス海馬において、手術侵襲によって増加したMapt の発現を抑制し、バーンズメイズ試験で測定された認知機能低下を改善させることを明らかにした。これらの結果は、今後の術後認知機能の低下の機序解明と、発症予測のマーカー設定に関して、示唆に富むものであり、将来的な研究につながることが予想される。
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