昨年度までに,①培養細胞を用いた好中球+LPSによる肺胞上皮細胞傷害モデルにおいてプロリルヒドロキシラーゼ阻害薬DMOGがHIF-1を介した解糖系の亢進により細胞保護効果をもたらすこと,②LPS誘導性肺傷害モデルマウスにおいてDMOGの気管内投与が肺胞バリアー透過性の亢進を抑制することが明らかになっていた. これを踏まえ,本年度はLPS誘導性肺傷害モデルマウスにおいてプロリルヒドロキシラーゼ阻害剤DMOGの気管内投与が細胞死抑制効果をもつことを気管支肺胞洗浄液中の上皮細胞死マーカー,サイトケラチン18の濃度をELISA法にて測定することで明らかにした.また,LPS誘導性肺傷害モデルにおいてDMOGの投与により肺組織中の解糖系関連タンパクの増加が見られたことから,培養細胞実験と同様に肺組織中の解糖系がDMOGによって亢進されることが示唆された.さらにLPS投与による肺組織ATPの低下をDMOGの気管内投与により抑制できることを明らかにし,エネルギー代謝の改善が細胞保護効果につながっている可能性があることが示唆された. ついで,DMOG投与がLPS誘導性肺傷害における生化学的なマーカーのみならず,臨床的なアウトカムを改善する可能性があるか明らかにするために生存率を調べる実験をおこなったが,LPS誘導性肺傷害だけでは死亡する動物がいなかった.そのため,代替アウトカムとして動脈血ガス分析を行うことで,DMOGの気管内投与により動脈血酸素分圧の低下を軽減できることを明らかにし,予後を改善する可能性があることを明らかにした. 以上の結果から,肺胞上皮細胞におけるプロリルヒドロキラーぜ阻害は解糖系の亢進によるエネルギー代謝の改善を介して,ARDSの新規治療アプローチになりうることが明らかにされた.これらの結果をまとめ論文を作製,投稿し,出版した.
|