研究実績の概要 |
本研究は, 手術後に見られる睡眠・覚醒リズムの障害やせん妄などの原因として, 全身麻酔薬による脳内の遺伝子発現変動が想定されることを背景としている. 近年の我々の研究から, 手術に頻用される全身麻酔薬セボフルランが, 視床下部視交叉上核において24時間の周期的発現を示し概日リズムを作っている時計遺伝子のひとつであるPer2の発現変動と, 周期のずれを引き起こすことを明らかにしたが, 本研究はこのセボフルランによる遺伝子変動のメカニズムを明らかにすることにある. 2017年までに 1) 不死化細胞株の樹立と, 2)その細胞株を用いた観測系の構築, 3) それを用いた薬理・生化学解析を予定していた. Per2発現に応じたルシフェラーゼレポーターをもつ細胞株の樹立と, それを観測するシステムの構築を行ない,その一部を論文として報告した(Nagamoto et al. 2016)が, ルシフェラーゼ発光計測機器の不具合が生じ, 安定化のための過去研究の再現実験と, 安定化ができなかったときのため並行して副課題を設定し研究をおこなってきた. 観測系の安定化が奏功せず, 2017年度より, 副課題として設定したc-fos遺伝子発現をマーカーとしたセボフルランの投与が惹起する神経活性領域の全脳マッピングに軸足を移して解析を行い, 2018年度の延長期間にこれらの追実験を終了した. この実験によりカジェハ島をはじめとする複数のセボフルラン応答脳領域を同定し, 得られた内容を投稿準備している. これに加え, 2018年度ではセボフルランと他の全身麻酔薬の比較実験を行い, 静脈麻酔薬であるプロポフォールではセボフルランに見られた行動リズムのシフトが惹起されないという予備的結果を得た.
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