近年、慢性疼痛の発生機序として、ATP受容体サブタイプの一つであるP2X7受容体の活性化が深く関わっていることが示されているが、P2X7受容体活性化の調節機構そのものについて不明な点が多く、これを解明することが重要な鍵となると考えられる。そこで、P2X7受容体をターゲットにした新たな鎮痛薬開発に貢献することを目的として、研究計画を立てた。①電気生理学的手法(アフリカツメガエル卵母細胞発現系)を用いたP2X7とP2X3受容体に対するニューロステロイド(NS)の影響解析、②P2X7とP2X3受容体のcRNAを用いたキメラ型cRNAの作成、③電気生理学的手法を用いたキメラ型P2X受容体に対するNSの影響解析による作用部位の同定、④侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛モデルマウスに対するNSの疼痛抑制効果の解析、⑤遺伝子変異マウスに対するNSの疼痛抑制効果の解析、である。 NSであるアロプレグナノロン硫酸塩(APS)、プレグネノロン硫酸塩(PS)、プレグナノロン硫酸塩(PAS)、デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩(DHEAS)と、ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンのP2X7受容体に対する影響を電気生理学的に解析したところ、PAS、DHEAS、デキサメタゾンは、弱い抑制作用しか示さなかったが、APS 、PSは共に強い抑制作用を持ち、PSの作用が最も強いことを発見した。また、APS、PSの抑制機序を解析したところ、共にATP誘発性電流を拮抗阻害的に抑制することを確認した。さらに、神経障害性疼痛の治療として使用される様々な抗うつ薬のP2X7に対する影響を調べたところ、抗うつ薬の中でパロキセチンのみがP2X7機能を抑制することを発見した。これらの結果もP2X7受容体活性化の調節機構を解明する上で、重要な手がかりになると考えられる。
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