研究課題
前立腺癌の進展過程において被膜外浸潤に関わる神経周囲浸潤(perineural invasion; PNI)と前立腺癌細胞の上皮間葉移行(Epithelial mesenchymal transition; EMT)および間葉上皮移行(Mesenchymal epithelial transition; MET)は重要なメカニズムであるが、その詳細な分子機構は解明されていない。本研究では、前立腺癌の局所進展の鍵となるPNIに関与するラミニンレセプター(integrin α6およびラミニン結合O型糖鎖: LB O-glycan)の発現調節と癌の浸潤転移に必須であるEMT-MET制御機構との関連性について明らかにする。2015年度は、前立腺全摘標本を用いた免疫組織化学的検討によってラミニンレセプター(LB O-glycanおよびintegrin α6)の局在、PNIに関する臨床的意義を調査した結果、PNI部位におけるLB O-glycan陰性かつintegrin α6陽性腫瘍の存在は、前立腺癌の生化学的再発の独立した危険因子であることが明らかとなった。また前立腺癌細胞を用いた細胞生物学的実験からラミニンがリッチな神経周囲に浸潤しやすい前立腺癌細胞は、LB O-glycan陰性かつintegrin α6陽性細胞であることが示された。前立腺癌細胞株のDNAマイクロアレイ解析からラミニンレセプターの発現調節、EMT-MET制御に関連する責任分子を検索した結果、let7マイクロRNAがLB O-glycanの合成に関与するβ1,4glucronyltransferase1の発現を調節することが明らかとなり、let7マイクロRNAの阻害剤が前立腺癌細胞の神経周囲浸潤能を抑制することを明らかにした。これらの研究成果を2015年度の日本、欧州、および米国の各泌尿器科学会で発表した
2: おおむね順調に進展している
2015年度の研究実施計画である1.前立腺全摘標本を用いた免疫組織化学的検討によってラミニンレセプター(LB O-glycanおよびintegrin α6)の局在、PNIに関する臨床的意義を調査する。2.前立腺癌細胞株のDNAマイクロアレイ解析を行い、ラミニンレセプターの発現調節、EMT-MET制御に関連する責任分子を検索する。3.EMT-MET制御に関連する責任分子の過剰発現、ノックダウン細胞を調製し、ラミニンレセプター発現への影響を検討する。上記のすべての計画が順調に進展し、PNIと前立腺癌のEMTに関する新たな知見が得られたため。
本年度に得られた新たな知見であるEMTによって活性化されるlet7マイクロRNAの役割としてLB O-glycanの合成に関与するβ1,4glucronyltransferase1の発現を調節し、神経周囲浸潤能を抑制するという機能が明らかになったことから、当初の計画通り、2016年度より、let7マイクロRNAの阻害剤を用いた動物実験により、増殖したがん組織におけるラミニンレセプターおよびEMT-MET責任分子の発現とPNIとの関連を調査する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
http://www.med.hirosaki-u.ac.jp/~uro/