研究課題/領域番号 |
15K20070
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西川 里佳 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (60746783)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 前立腺癌 / 癌抑制遺伝子 / 細胞外マトリックス / focal adhesion |
研究実績の概要 |
初期の前立腺癌は、アンドロゲンに依存して増殖するため、アンドロゲンを遮断する治療法により治療効果が望める。しかしながら多くの前立腺癌は、数年で治療に対する耐性機構を獲得し、アンドロゲン非依存的な増殖能を獲得する(去勢抵抗性前立腺癌)。去勢抵抗性前立腺癌に対する有効な治療法は乏しく、やがて骨・リンパ節等に転移をきたし患者を死に至らしめる。進行症例の前立腺癌に対して、遠隔転移の制御は、臨床上重要であるが、その分子機構は未だ十分に解明されていない。 ヒトゲノム解析研究の結果、ヒトゲノム中には蛋白をコードしないRNA分子が多数存在し、実際に転写されている事が判明した。その中で、僅か19塩基~22塩基の1本鎖RNA分子は、マイクロRNAと呼ばれる。1種類のマイクロRNAは、配列依存的に数百~数千種の機能性RNA(蛋白コード、非コード遺伝子)の発現を制御している事から、細胞内ではマイクロRNA-機能性RNAの極めて複雑な分子ネットワークが形成されている。癌の研究においては、マイクロRNAの発現異常が、癌細胞の発生、進行、転移に重要な役割を担っている事が相次いで報告されている。前立腺癌臨床検体から作成したマイクロRNA 発現プロファイルから、前立腺癌において発現変動を認める複数のマイクロRNAを同定した。そこで本研究では、この中から、前立腺癌の転移に関与するマイクロRNAを同定し、それらマイクロRNAが制御する分子ネットワークを探索する事を目的とした。前立腺癌の転移に関する新規シグナル伝達機構が明らかになれば、その活性化されたシグナル機構を遮断する戦略が考案できる。前立腺癌の転移に関わるマイクロRNAを起点とした解析により、前立腺癌の転移に対する新規治療法の開発へ近づく事ができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
去勢抵抗性前立腺癌に至った患者検体から、マイクロRNA発現プロファイルを作成した。このプロファイルにおいて、癌組織で発現が抑制されているマイクロRNAに着目し、「転移抑制型マイクロRNA」の探索を試みた。方法は、前立腺癌・癌細胞株(PC3およびPC3M)に、発現抑制が認められたマイクロRNAを核酸導入し、癌細胞の遊走能・浸潤能が抑制される事を指標にして、「転移抑制型マイクロRNA」の候補を同定する。これまでの解析から、microRNA-29a、microRNA-29b、microRNA-29c、microRNA-218、microRNA-223、microRNA-320aについては、癌細胞の遊走能・浸潤能を制御する「転移抑制型マイクロRNA」の候補である事を証明した。これらマイクロRNAの中で、microRNA-29a、microRNA-29b、microRNA-29cは、他の癌種においても、発現が抑制されており、また、これらマイクロRNAの導入により、癌細胞の遊走能・浸潤能を顕著に抑制する事を認めた。そこで、microRNA-29a、microRNA-29b、microRNA-29cについて、これらマイクロRNAが制御する「転移促進型遺伝子」の探索を試みた。microRNA-29a、microRNA-29b、microRNA-29cを導入した細胞の網羅的な遺伝子発現解析と、マイクロRNAデータベースを組み合わせたゲノム科学的手法により、lysyl oxidase-like 2 (LOXL2)遺伝子を同定した。LOXL2は、前立腺癌組織で高発現しており、LOXL2遺伝子をノックダウンする事により、癌細胞の遊走能・浸潤能が顕著に抑制された。本解析から、前立腺癌の「転移促進遺伝子」であるLOXL2を探索した。
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今後の研究の推進方策 |
去勢抵抗性前立腺癌・マイクロRNA発現プロファイルから、「転移抑制型マイクロRNA」を同定し、これらマイクロRNAが制御する遺伝子を探索した結果、「転移促進型遺伝子」を同定することが可能であった。この事は、本研究戦略により、前立腺癌の新規転移遺伝子が更に探索できる可能性を示唆している。そこで、今後の研究として、癌細胞の遊走能・浸潤能を抑制する、microRNA-218、microRNA-223、microRNA-320aについて、これらマイクロRNAが制御する「転移促進型遺伝子」を同定する事を継続する。前立腺癌の転移に関わる遺伝子が同定できれば、その遺伝子を介するグナル伝達機構が明らかにする事が可能である。 また、これまでの解析から明らかとなった「転移促進型遺伝子・LOXL2」について、その詳細な機能解析を行う。最近の解析から、LOXL2の高発現は、細胞外マトリックスの異常な蓄積に関与しており、細胞外マトリックスを介した癌細胞の転移能獲得に重要な役割を担っている事が示唆されている。つまり、LOXL2を起点とした分子ネットワークを探索する事により、前立腺癌の転移に関する新規シグナル伝達機構が明らかになる可能性を示唆している。活性化したシグナル伝達機構が明らかになれば、その活性化されたシグナル機構を遮断する戦略が考案できる。今後の展開として、LOXL2を介したシグナル伝達機構を明らかにしたうえで、その遮断法について検討する。 今後患者数の増加が予想されている前立腺癌に対して、治療法が確立していない転移制御の基礎研究は重要であり、本研究を通して新たな治療抵抗性前立腺癌の転移の分子メカニズムの一端が明らかになる事が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析で使用する試薬が他の研究予算で購入したものと同じで 共同で使用することができたり、研究室に残っていた試薬を使用することができたため、これらの試薬や抗体の購入費が節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に研究に必要な試薬や抗体の購入費に充てたいと考えます。
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