認知症に合併する過活動膀胱には、効果的な治療法が確立されているとは言い難い状況にある。過活動膀胱に対する薬物治療として抗ムスカリン薬が多く用いられてきたが、潜在的な認知症悪化のリスクに加え、低い有効率や比較的高い有害事象発生率から、必ずしも良い治療法ではなかった。海馬は記憶・学習を司り、認知症の発症に関しているが、近年、排尿反射への関与も示唆されている。これまで、代表者が所属する研究室では、微小電極を用いた海馬局所の電気刺激が排尿反射を抑制することを報告し、グルタミン酸NMDA受容体拮抗薬MK-801の海馬内投与が排尿反射を抑制することを見出してきた。本研究では、海馬の排尿反射に及ぼす作用に注目し、海馬が認知症状モデル実験動物における過活動膀胱治療のターゲットになり得ると仮定し下記の実験を行った。 ウレタン麻酔を施したラットをstereotaxic frameに固定し、頭蓋骨を除去し、膀胱頂部からPE-50カテーテルを挿入し、生理食塩水を注入(0.04ml/min)しつつ膀胱内圧測定を行った。Paxinos&Watsonのラット脳アトラスを基にラット海馬を電気刺激し、排尿反射に関与する解剖学的部位を同定した。また種々の周波数(1~200Hz)、刺激強度に加え、排尿反射に抑制的または促進的にはたらくニューロンを同定し脳地図の作製を行った。 上記の実験で同定したラット海馬内の排尿反射に関与する部位にグルタミン酸受容体拮抗薬、ムスカリン受容体拮抗薬、GABA受容体拮抗薬を種々の濃度でmicroinjectionし、排尿反射に及ぼす容量依存的な作用を調べ、主たる神経伝達物質とその作用を検討した。
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