この十数年間、下部尿路機能障害分野における研究の主題は過活動膀胱であった。しかし近年、低活動膀胱が注目されて来ている。それは膀胱出口部閉塞がない状態での排尿障害の主な原因として重要であり、治療薬の数や効果も限られていることから、低活動膀胱の原因を明らかにして、原因を除外し、低活動膀胱の発症を抑制するのが、現時点では最も実現性の高い低活動膀胱へのアプローチであると考えられる。低活動膀胱の発症機序としてもっとも支持されている仮説が動脈硬化であり、膀胱(骨盤内臓器)の血流障害は過活動膀胱を発症させ、さらに血流障害が進行すると低活動膀胱に移行するという考えである。しかし過活動膀胱と低活動膀胱の関連に関する詳細な機序は不明なままであり、本研究は過活動膀胱による頻回の排尿筋収縮(膀胱内圧の上昇)自体が低活動膀胱の原因となり得ないか、検討することである。 雌性Sprague-Dawley (SD) ラット12 週齢を用いて尿路上皮の知覚亢進による過活動モデルを作製している。SDラット膀胱の頂部から薬剤注入用のカテーテルをハロタン麻酔下に留置し、浸透圧ポンプを用いてプロスタグランディン(PG)E2またはカルバコール(CCh)を膀胱内に持続注入した。種々の濃度を試し、頻尿になる注入濃度について代謝ケージを用いた実験で明らかにして来ている。そして、膀胱内圧測定によっても膀胱容量がコントロール群(膀胱内に生理的食塩水を注入した群)の60%程度になることを確認した。現在は注入する薬剤濃度と予定している膀胱内投与期間(24週間)との関連で、どの薬剤をどの濃度で投与するのが最適なのか長期投与の際の投与条件を検討中である。
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