研究課題/領域番号 |
15K20101
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
西尾 英紀 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (10621063)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 精子形成 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
私たちは造精機能障害モデルである停留精巣ラットを用いた検討から、ヒストンタンパク脱メチル化酵素であるKdm5a (lysine (K)-specific demethylase 5A)が停留精巣で発現亢進し、精子形成にエピゲノムが関与することを報告した。しかし、ヒトの精巣におけるKDM5Aの詳細は不明である。そこでヒトの停留精巣におけるKDM5Aと精細胞分化関連遺伝子との関連について検討した。 2012年1月から2015年2月までに両側精巣固定術を施行した一側停留精巣・対側遊走精巣を対象とし、術中に精巣生検を行い、以下の検討に使用した。研究(1) 遊走・停留精巣におけるKDM5A発現局在、研究(2)KDM5Aおよび精細胞分化の関連遺伝子の発現定量、研究(3) マウス精原細胞、セルトリ細胞の培養株であるGC-1細胞、TM4細胞へのKdm5a遺伝子導入を用いた精細胞分化の関連遺伝子の発現定量。 研究(1)では、KDM5Aは停留・遊走精巣のいずれも精原細胞、セルトリ細胞に発現していた。研究(2)では、KDM5Aおよび精細胞分化の関与遺伝子であるESR2(estrogen receptor 2)は、停留精巣で発現亢進していた。研究(3)では、Kdm5a強制発現により、GC-1細胞ではESR2が発現亢進したが、TM4細胞では発現変化を認めなかった。 造精機能障害モデルラットで、精細胞分化にKdm5aが関与することを私たちは報告してきたが、上記の結果からヒトの精子形成にもKDM5Aが関与することが推察された。またKdm5aはラット停留精巣では精細胞のみに発現していたが、ヒト停留精巣ではセルトリ細胞にも発現していた。さらにKdm5a強制発現によるESR2の発現変化がTM4細胞で認めず、GC-1細胞のみで認めたことから、KDM5Aによるエピジェネティックな精細胞分化の調節機能が細胞間で異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
in vitroでのKdm5aの発現機能解析を行うための手段として、精子幹細胞の培養細胞系の確立を計画した。正常4週齢ラットから精巣を摘出、機械的処置により細胞を分散させ、細胞懸濁液をⅠ型コラーゲン・ラミニンでコートしたディッシュで選別する。この方法で高率に精子幹細胞を回収することができると考えていたが、精巣内に存在する精子幹細胞数が少ないため、回収が困難であった。 またKdm5aによるゲノム上の修飾状態を検討するため、クロマチン免疫沈降法(chromatin immunopreci itation, ChIP)が用いたが、手技の部分で再現性が得られず、条件を変えながら繰り返し実験を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR/Casによるノックアウトマウスの作製および精巣評価を計画する。具体的には、クロマチン免疫沈降法で同定した遺伝子のノックアウトマウスをCRISPR/Casを用いて作製する。CRISPR/Casゲノム編集法は、近年報告された新しいゲノム編集法で、single guide RNA (sgRNA) という標的配列を含む短いRNAとCas9というバクテリア由来のDNA二本鎖切断酵素を受精卵に注入することで、DNA切断酵素が標的ゲノムDNAを切断することによりノックアウトマウスを作製することができる方法である。具体的には、テンプレートのsgRNAとhCas9をpolymeraseを用いて増幅し、キットを用いて精製、合成する。これらをRNA free Waterに溶出させインジェクション液を作製する。インジェクションピペットを作製し、採取した受精卵へインジェクション液を注入し、30分~1時間ほど培養し、生き残った受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植する。離乳した産仔の尻尾由来DNAを用いてダイレクトシークエンスを行う。ノックアウトマウスの精巣を経時的に採取し、組織学的にJohnsen’s scoreやアポトーシスの有無を検討する。
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