研究課題
男性不妊症はわが国の最重要案件の一つであるが、その研究・治療には改善の余地が大きい。私たちはこれまでに男性不妊症の主因である停留精巣において精子幹細胞の機能が低下することを明らかにしてきた。ただし精子幹細胞は単独で精子形成できないことも知られている。その中で、私たちは停留精巣の既往をもつ男性不妊症患者の精巣ではセルトリ細胞単独症(Sertoli Cell Only syndrome;SCO)をしばしば認めることを臨床病理の結果から得た。すなわち停留精巣のような先天的に造精機能障害のリスクを内包する疾患の一部にはセルトリ細胞の機能異常があり、具体的には、本研究ではこれまでの成果をふまえ、男性不妊症での精子幹細胞の分化異常とセルトリ細胞の機能変動の関連について解析を行っている。これまでに造精機能障害におけるセルトリ細胞機能、精子幹細胞活性および精子形成との関連を行ってきた。当初は停留精巣モデル動物を用いた研究から開始することを考えていたが、より実臨床に近い成果を得るため、ヒト手術検体を用いた研究を行ってきた。まず停留精巣組織精子幹細胞(spermatogonial stem cell; SSC)の幹細胞活性と、それが精細胞分化に及ぼす影響を検討し、造精に強く関与する精子幹細胞関連遺伝子であるUTF1(undifferentiated embryonic cell transcription factor 1)遺伝子の発現が停留精巣において低下していることを確認した。またセルトリ細胞の成熟度を評価することが可能なマーカーとしてCytokeratin 18 (KRT18)を見出した。
2: おおむね順調に進展している
私たちの研究施設では小児先天異常研究班と男性学研究班のなかでも精巣研究を以前から共同で行ってきており、精巣の機能異常についての知識ならびに実績が蓄積されている。また停留精巣および男性不妊症の組織を得るために大学病院およびその関連施設との連携が重要であるが、組織採取のプロトコルを確立しており、安定した検体確保が可能となっている。さらに当施設では複数名が精巣病理組織に精通しており、結果判定の正確さが確保されている。さらに複数の研究助手が存在し、多くの手技が系統的・安定的に行われている。将来的な精子形成の評価には、有用性と再現性が担保された精子幹細胞マーカーの確立が必須であるが、私たちはUTF1・KDM5Aなどを用いた精度の高い活性評価法を樹立している。またこれらの有用性・再現性はblind下での複数名の研究者で確認し、それに基づいた研究を多方面に生かしている。以上のことより本実験は、現在まで概ね順調に経過していると考えられる。
平成27年度の結果を反映して、男性不妊症に至る過程におけるセルトリ細胞の成熟度異常やアポトーシスの関連を検討中である。そこから導き出された遺伝子異常の結果を用い、アデノウィルスベクター法による精巣内への遺伝子導入を「セルトリ細胞選択的遺伝子導入法を用いた機能解析」として行うことを考えている。この手法では、生殖細胞とセルトリ細胞やライディッヒ細胞などの体細胞とで、選択的な遺伝子導入が可能である。本研究で見出した遺伝子についても、同様の手法でセルトリ細胞株TM4に対して選択的に遺伝子導入することで、細胞間の情報伝達や造精機能を制御するカスケード解明に有用と考えられる。さらに「停留精巣患者のセルトリ細胞機能の解析による男性不妊症早期診断ツールの開発」を目指し、セルトリ細胞の発現制御因子を停留精巣の既往をもつ男性不妊症患者で発現変化している遺伝子群について、小児停留精巣患者の精巣内発現を免疫染色などで評価し、小児期で将来的に男性不妊症となるリスクを診断できる簡便なツールの開発を目標とする。
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臨床泌尿器科
巻: 69 ページ: 345-348
巻: 69 ページ: 349-352
小児外科
巻: 47 ページ: 848-852
BMC Res Notes
巻: 8 ページ: 129
10.1186/s13104-015-1100-5.