マウス前立腺を用いて、前立腺上皮細胞の解剖学的研究を行った。前立腺上皮細胞は主に腺上皮細胞と基底上皮細胞が存在しているが、稀に神経内分泌細胞や成体幹細胞が存在している。今回は、その稀に存在する細胞を解剖学的に追求した。まず、神経内分泌細胞の主要なマーカーであるセロトニンとクロモグラニンAを用いてその分布を確認した。その結果、神経内分泌細胞は尿道近傍の前立腺導管に偏って存在していた。腺房に近い領域の導管にも少数の細胞が存在していたことを確認したが腺房内にはその存在は確認できなかった。また、代表的な神経内分泌マーカーであるシナプトフィジン、CD56、ニューロン特異的エノラーゼは70~90%の割合でセロトニンと共発現していた。各種神経内分泌因子についても検討したが、ヒスタミン、ガストリン放出ペプチド、カルシトニン関連蛋白、コレシストキニンがセロトニンと共発現していた。また、過去の報告において発現が確認されていた副甲状腺ホルモン関連ペプチド、血管内皮細胞増殖因子、バゾプレッシン、ソマトスタチン等は発現を認めなかった。上皮や間質の関連蛋白についても検討したが、過去の報告と異なり腺上皮細胞のマーカーであるサイトケラチン8/18を発現していた。性ホルモン受容体の発現も確認したが、その発現は認めなかった。細胞接着因子であるE-カドヘリンも腺上皮細胞との間に発現しており、腺上皮細胞との間に極性があることも確認した。電子顕微鏡的に超微細構造も確認を行った。過去の報告とおり、腺管内腔とコンタクトがあるopen typeとコンタクトがないclosed typeの2種類のタイプが存在することを確認した。open typeの細胞は腺管内腔と接する部位に微絨毛が豊富に存在することを確認した。closed typeの細胞は腺管内腔と直接コンタクトはないが、その間を介在する細胞の存在を確認した。
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