昨年度においてin vitroの研究結果からJNK特異的阻害薬であるSP600125とパクリタキセルないしシスプラチンの逐次処理でパクリタキセルおよびシスプラチンの殺細胞効果を高めることを明らかにし、国際誌であるOncology Reportsに投稿し掲載された。その後、同様の現象がin vivoで確認されるか検証するために、卵巣がん担癌マウスモデルを用いて、Control、SP600125単剤、パクリタキセル単剤、SP600125+パクリタキセル(同時投与)、SP600125+パクリタキセル(逐次投与)の5群で比較を試みつつあるが、まだ卵巣がん動物モデル作成や薬剤投与の条件を検討している段階であり、本研究実施期間中には有効性の実証にまでは至っていない。 上記とは別に申請者および所属する研究室では卵巣がんをはじめとするがん幹細胞の幹細胞性維持にJNKシグナルが必要であることを報告してきたが、これまでに使用してきた多くの論文に使用されているSP600125はヒトに対して安全性が報告されているわけではなかった。近年、子宮内膜症治療薬AS602801はJNKを標的とする分子標的薬がphase2試験をクリアし、ヒトに対して使用可能となったことから、申請者が樹立した卵巣がん幹細胞に対しその有用性に対する研究を行った。すると、AS602801はがん幹細胞に対して、弱いながらも殺細胞性の効果があり、それとともに生存した細胞に対してはがん幹細胞性を喪失させた。さらに腫瘍創始能も顕著に抑制し、目立った副作用も見られなかったことから、これまでに報告してきたJNK阻害薬と同様の効果があることがわかり、 がん幹細胞標的治療薬としての可能性を強く示唆することとなった。この成果を国際誌であるOncotargetに投稿し、掲載されるに至った。
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