【目的】低酸素性虚血性脳症 (HIE) は、周産期の低酸素血症・脳虚血により起こる脳障害の総称で、その治療法はまだ確立していない。ラットHIEモデルを用いて、プロゲステロン (P4) の脳障害の回避効果を検討した。【方法】妊娠18日目 (GD18) に麻酔下で開腹し、子宮動脈の血流を30分間遮断した。出生後、各群にP4 (0.10 mg/dayまたは0.01 mg/day)、メドロキシプロゲステロンアセテート (MPA、0.12 mg/day)、アロプレグナノロン (Allo、0.10 mg/day) を生後1日目から9日間皮下投与した。脳障害評価を50日齢でのロタロッド試験、その後の脳組織学的検索で行った。ロタロッド試験は回転台上に止まることが出来た時間 (秒) を”生存時間” (T) と見なして、カプランマイヤー法で評価した。【結果・考察】GD18の低酸素性虚血ストレスにより、Tは有意に短縮した (HIEラット)。P4投与はHIEラットのTを偽手術のレベルまで回復させた (ログランク検定、p<0.001)。低濃度P4でもTの改善がみられた。P4の代謝産物であるAlloではTは回復したが、人工合成物のプロゲスチン製剤であるMPAはTの改善を示さなかった。組織学的評価では、HIEラットで大脳皮質・海馬CA1領域の神経細胞数と、脳梁のオリゴデンドロサイト数の減少、大脳皮質の第2-3層の層構造に乱れが認められた。また脳梁のミエリン鞘も菲薄化していた。P4、Allo投与群では、これらの神経細胞やオリゴデンドロサイト数、ミエリン鞘厚を偽手術群と同等のレベルまで回復させた。またP4代謝産物であるAlloはGABAA受容体のアロステリック・アクティベータと言われており、P4受容体アゴニストであるMPAの効果が乏しいことより、P4による脳障害の改善はGABAA受容体を介する効果と推測された。【結論】低酸素性虚血ストレスによる脳障害は、出生後のP4投与により改善し、その効果はGABAA受容体を介して示されると推測された。
|