研究課題/領域番号 |
15K20130
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 和恵 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員 (80615972)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリー / 妊娠 / がん治療 |
研究実績の概要 |
母親の出産年齢の上昇に伴い、妊娠中にがんを発症するケースが増加している。現在は妊娠の中断、手術、抗癌剤を中心とした対応が取られているが、リスク・ベネフィットを十分に検討する必要がある。抗癌剤は妊娠中期から後期に使用され、胎盤の透過性が低いとされる薬が選択されるが、流産や低体重、将来の発がん性といったリスクが高まるとの報告もある。本研究では胎盤の物質透過性に着目し、高分子ミセルが母体に選択的に抗癌剤を送達するキャリアとして有効であるかどうかを検証することを目的としている。当該年度は、サイズの異なる白金製剤含有高分子ミセルを妊娠後期のマウスに投与し、元素分析によって胎盤および胎児への集積と分布を定量的に評価した。その結果、高分子ミセルの胎児への集積量は抗癌剤単体に比べて低く、特に直径70nmのミセルは1/10であった。また、胎盤内への分布は、低分子量の抗癌剤単体が一様な分布を示したのに対し、高分子ミセルは母体血管が多い組織に高い集積が見られた。特に、30nmのミセルの方が70nmのミセルよりも集積濃度が高かった。これは高分子ミセルの血中滞留性が高いことに加え、胎盤に捕獲されやすいサイズがあることを示唆している。これまでの研究成果から、高分子ミセルの固形がんへの集積量が高いことが報告されており、サイズを最適化することにより、妊娠時に胎児への影響を抑える有効な手段になり得る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、マウス胎児と胎盤への白金製剤含有高分子ミセルの集積・分布評価を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
高分子ミセルの大きさが胎児や胎盤への集積量に影響を与えることが示唆された為、それが抗腫瘍効果にも影響を与えるかどうかを、担癌妊娠マウスを用いて確認する。妊娠性のがんとして発症率の高い、乳癌細胞を用いる。また、妊娠を確認してすぐに癌細胞を移植する必要があり、高度な飼育技術が求められる為、東京大学工学系研究科のオラシオ・カブラル准教授のご協力を得て、川崎市のナノ医療イノベーションセンターにて動物実験を実施する予定である。その結果を踏まえて、ヒトとマウスの胎盤の構造の違いや、内包する抗癌剤の特性を十分考慮し、臨床応用に適した形を提案する。 更に、産婦人科領域での医療イノベーションについて調査し、臨床応用に向けた方向性を検討する。産婦人科の創薬や治験は国内では殆ど行われておらず、専ら海外で開発・承認されたものを輸入している。産婦人科領域のスタートアップやインキュベーションが盛んなシリコンバレーでの事例の調査を通じ、国内の産婦人科領域のトランスレーショナル・リサーチのあり方について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はスタンフォード大学への研究留学を行い、往復分の旅費を計上していたが、実際には帰国せず現地にて研究を継続した為、旅費および物品費が当初予定額よりも少なくなった。また、論文の投稿を予定していたが、当該年度に有望な結果が得られた為、次年度の結果と併せた内容で投稿・発表することにした為、論文投稿費用や学会参加費用を次年度に繰越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
「理由」欄で述べたように、繰越した研究予算は、論文準備・投稿費用、国際学会の参加費用および実験を実施する際の旅費として使用する。
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