研究課題/領域番号 |
15K20146
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
岡田 真紀 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (90736159)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 発現制御 / シグナル伝達 / ゲノム |
研究実績の概要 |
LHサージによる黄体化に伴い、卵巣顆粒膜細胞ではプロゲステロン合成に働く酵素であるCyp11a1が急激に発現する。この短時間での巧妙に制御されたステロイド合成関連蛋白酵素の遺伝子発現調節において、遺伝子プロモーター領域のヒストン修飾やクロマチン構造変化といったエピジェネティックな調節機構が関わっていることが報告されている。本研究では黄体化に伴うCyp11a1の発現制御にエピジェネティックな調節機構が関わっているかを明らかにし、さらにはその調節機構を変化させる細胞内情報伝達経路を解明することを目標とした。 平成27年度は、LHサージから排卵までの、卵巣顆粒膜細胞の黄体化に関して、以下実験を行いCyp11a1の発現制御にエピジェネティックな調節機構が関わっているかを明らかにした。①Cyp11a1プロモーター領域におけるDNAメチル化状態の変化をBisulfite genomic sequencing法で、ヒストン修飾の変化をChIP assayで解明する。②エピジェネティクス変化に伴うクロマチン構造変化をDNase I chromatin accessibility assayを行い解明する。③Cyp11a1プロモーター領域において結合が変化する転写因子とリクルートされるヒストン修飾酵素をChIP assayを用いて同定する。 今後は、顆粒膜細胞の培養実験により、LH刺激によるCyp11a1プロモーター領域のヒストン修飾変化とin vivo実験で同定したヒストン修飾酵素のリクルートに細胞内情報伝達系としてERK1/2が関与するかを、ERK1/2阻害剤(U0126)を用いて明らかにする。また、Cyp11a1発現制御に関与する転写因子に関しても検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に達成目標としていたCyp11a1の発現制御にエピジェネティクス変化が関与するかに関しては、以下の方法で概ね検討を行うことができた。 3週齢雌ラットにPMSGを投与し過排卵モデルを作成、hCG投与前(0h)と投与後4h,12hの顆粒膜細胞を回収し以下の解析を行った。1) 定量的RT-PCRにおいて、mRNAは0hに比べ4h,12h後に有意に増加した。2) ヒストン修飾をChIP assayを用いて検討したところ、近位promoter領域(-23bp~-206bp)では,転写活性に働くヒストン修飾であるH3K4me3は0hと比べ12hで有意に増加し,逆に転写抑制に働くヒストン修飾であるH3K9me3とH3K27me3は4h、12hともに有意に減少した。3)DNAメチル化をBisulfite sequencing法を用いて検討したところ、約-500bpまでの5 CpG部位のDNAは低メチル化であり,hCG投与後も有意な変化は認めなかった。4)クロマチン構造をchromatin accessibility assayを用いて検討したところ、近位promoter領域のクロマチン構造は0hと比較し4h、12hでは有意に弛緩した。5)ヒストン修飾酵素の結合をChIP assayを用いて検討したところ、H3K27me3のメチル化酵素であるEZH2が優位に減少した。 以上のことから、Cyp11a1発現制御にはエピジェネティクス変化が関与することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度に明らかになったCyp11a1発現に関与するヒストン修飾変化に、ERK1/2が関与しているかをラット卵巣顆粒膜細胞の培養系を用いて検討する。3週齢雌ラットにPMSGを投与し48時間後に顆粒膜細胞を回収、ERK1/2阻害剤であるU0126を投与し2時間培養後、hCGを添加し、4時間後に顆粒膜細胞を回収。ヒストン修飾をChIP assayを用いて検討する。また同様に回収した培養顆粒膜細胞を用い、ヒストン修飾酵素のChIP assayを行い、U0126投与と非投与におけるヒストン修飾酵素のリクルートの変化をみる。 さらにCyp11a1発現に関与する転写因子を同定する。Cyp11a1遺伝子プロモーター領域に結合配列を持つ転写因子(GATA-4、SF-1、SP-1、C/EBPβ等)のChIP assayを行う。さらに結合が増加する転写因子に関してluciferase assayを行い活性の有無を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に購入予定であった実験動物(ラット)と実験試薬や抗体量が予定数よりも減少したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
必要量の実験動物や実験試薬を購入することに加え、成果発表の旅費等に使用する。
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