研究課題/領域番号 |
15K20154
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
後藤 志信 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (90591909)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 不育症 / プロテアーゼ / IL-33 / カテプシンG / 脱落膜 / 絨毛 / 子宮頸管粘液 |
研究実績の概要 |
〈目的〉流産を繰り返す不育症の病態解明及び、流産を早期に予知し治療に結び付けるための非侵襲的診断法の確立を目的とする。今年度は、昨年度検討した着床に関与するとされるIL-33と、その活性化に関わるcathepsin G (CTSG)について、脱落膜及び子宮頸管粘液中における発現量を症例数を増やして検討する。また両者の組織内の局在についても検討する。 〈方法〉本研究は倫理委員会の承認を得て、患者同意のもと実験を行った。流産手術時に得られた脱落膜組織におけるIL-33とCTSGの発現と局在を免疫組織染色法(IHC法)で確認し、胎児染色体異常群(n = 59)と正常群(n = 34)のIL-33及びCTSGの発現量をELISA法で測定した。また不育症患者の妊娠初期頸管粘液中のIL-33及びCTSGとその後の妊娠帰結を流産群(n = 22)と出産群(n = 48)とで前方視的に検討した。 〈結果〉IHC法にて流産脱落膜組織中にIL-33とCTSGの発現が認められたが、発現量はともに胎児染色体異常の有無で差はみられず、組織内局在の違いは明らかでなかった。妊娠初期頸管粘液中CTSGは流産群2.82±8.26 (median±IQR、以下同様) ng/mL、出産群0.50±1.70ng/mLで有意に高値であり(p<0.05)、更に流産群において胎児染色体正常群の妊娠初期頸管粘液中CTSG発現量(14.95±10.68ng/mL、n = 4)が胎児染色体異常群(1.96±3.07ng/mL、n = 14)より有意に高値であった(p<0.05)。IL-33は両群間で有意差はないものの、CTSGと同様に流産群、特に胎児染色体正常群で高値である傾向が認められた。 〈結論〉IL-33及びCTSGが反復流産病態に関与し、妊娠初期頸管粘液中CTSGの上昇が流産の予知因子となりうる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
妊娠帰結が判明する前の妊娠ごく初期に子宮頸管粘液を採取しその予後を前方視的に検討したところ、流産に至った症例ではCTSGの発現量が有意に高値であるという結果が得られた。特に胎児染色体正常群、すなわち母体因子による流産と思われる症例でCTSGの発現量が有意に高値であったことから、子宮頸管粘液中のCTSGが妊娠予後を予測するためのバイオマーカーとなりうる可能性を示唆するだけでなく、治療に結び付く可能性も示唆している。なぜなら胎児染色体数は通常受精・着床時から不変であり胎児因子による流産の予防は難しいが、母体因子の場合は妊娠判明後の介入でも予後改善が期待できるからである。但し今回までの検討では流産群の内、胎児染色体正常群及び異常群の症例数に偏りがあり、結論付けるにはまだ症例数が不十分であると思われるため更に症例の蓄積が必要である。また不育症におけるCTSG、IL-33の役割についての詳細な病態解明も今後の課題である。 脱落膜組織中の発現及び局在の検討では、IHC酵素法で抗IL-33抗体と抗CTSG抗体の染色性が各々形態学的に異なる細胞に認められたため、その発現部位を詳細に検討するため蛍光多重染色法を行ったが特徴的な差異は捉えることができていない。染色条件や選択抗体を変えて改めて解析することで更なる結果が得られる可能性がある。 脱落膜組織中のIL-33及びCTSGの発現量は染色体異常群と正常群とで有意差は認められなかったが、解析に使用した材料が流産後の組織であるため、流産に至る経過での局所の炎症反応や免疫系の変化により修飾を受けた結果を反映している可能性がある。今回の検討で、妊娠経過中の状況を鋭敏に示していると考えられる子宮頸管粘液で有意な結果が得られたことは臨床的にもより有意義であると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
・子宮頸管粘液、脱落膜組織中のIL-33及びCTSGの発現量について引き続き検体収集を継続し症例数を増やして検討する。またIHC法においてIL-33とCTSGの局在部位の差異について、使用抗体や染色条件を再検討し蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡を用いて発現部位の同定を行う。 ・IL-33はCTSGにより活性化調節を受けていると報告されていることから、個々の症例におけるIL-33/CTSG比の差異についても検討する。 ・IL-33のレセプターであるST2について、脱落膜及び子宮頸管粘液中の発現ELISA法及びIHC法で検討する。 ・これまでに他人種においてIL-33の一塩基多型(SNPs)と不育症との関連を示唆する報告があるが、SNPsは人種間差異も大きいため本邦における不育症とIL-33のSNPsとの関連、及び子宮頸管粘液中のIL-33値とSNPsとの関連について検討する。CTSGについては心血管系疾患等の患者においてSNPsの報告があり、不育症患者についても同様に解析を行う。 ・子宮内膜間質細胞のCell line(HESC)を用いてエストラジオール、プロゲステロン、cAPMを培養上清に添加し脱落膜化させる実験系を確立し、低酸素刺激やIFN-γ/LPS添加による炎症惹起モデルにおけるIL-33やCTSGの発現変化について検討する。
|