研究課題
IMP3(Igf2 mRNA- binding protein 3)は胎生期の諸臓器および癌で発現している癌胎児性タンパクである。様々な悪性腫瘍においてIMP3の高発現と悪性度や予後との相関が報告されているが、その機能の全容については明らかになっていない。これまでに我々はマウス肉腫モデルを用いて、Imp3が生体内での腫瘍形成能、悪性度に直接寄与する事を明らかにした。そこで、本研究ではヒト癌肉腫におけるIMP3発現を発現強度および分布について解析し、癌腫成分におけるIMP3発現と全生存期間について検討した。その結果、IMP3発現が強く、分布の広い症例ほど予後不良であるという傾向がみられ、特にIMP3発現分布については有意差が認められた。またマウス肉腫モデルを用いた先行研究で、エピジェネティクス関連薬剤としてDNMT1阻害剤およびHDAC阻害剤を添加すると、Imp3発現はmRNAレベルで上昇した。これは、IMP3発現がエピジェネティックな制御を受けている可能性を示唆する結果である。そもそもIMP3は癌胎児性タンパクであり、胎生期に発現がみられるものの、出生後は正常組織での発現はみられず、癌でふたたび発現がみられる。マウス肉腫モデルの実験から、がんでの発現制御にエピジェネティックな修飾が関わるのではないかという知見を得て、今回は特にヒストン修飾に着目し、関連性を検討することにした。そしてヒト癌肉腫の癌腫成分におけるヒストンメチル化修飾がIMP3と関連し、全生存期間と相関することが明らかになった。これによりヒストンメチル化修飾のようなエピジェネティックな機序が、IMP3発現に上流または下流で関わる可能性があり、癌胎児性タンパクであるIMP3は予後因子としてだけではなく、今後癌肉腫治療標的として有用である可能性があるものと考える。
3: やや遅れている
当初の研究予定では、平成27年度にレーザーマイクロダイセクションを用いた遺伝子発現プロファイルおよびmicro RNA発現プロファイルの解析からIMP3関連候補分子の抽出を予定していた。しかしながら、網羅的な発現アレイを行う事前に、IMP3に関連するエピジェネティクス関連候補分子を絞り込む目的で、当初平成28年度に予定していたヒト臨床検体を用いたヒストン修飾状態について先に確認する予定に変更した。そしてヒト癌肉腫検体において、IMP3発現とヒストンメチル化修飾状態が予後と相関することを見出し、さらにIMP3発現とヒストンメチル化修飾状態が発現一致することを確認した。これにより、IMP3発現とエピジェネティックなヒストン修飾が関わることが強固に示唆され、引き続きヒト臨床検体を用いた発現アレイを予定していく計画である。また本務先の異動に伴い、実験設備が整った施設での研究遂行が可能となり、cell lineを用いた実験計画も進めていきたいと考えている。
これまでにマウス肉腫モデルを用いた先行研究において、RNA免疫沈降法(RIP assay)によりIMP3の標的となるRNAを検討している。その結果、いくつかのヒストン修飾に関わる分子のRNAがImp3の結合するmRNAの候補として考えられた。さらにヒト癌肉腫検体においてIMP3発現とヒストンメチル化修飾が関連することが昨年度の研究結果から強く示唆され、今後はレーザーマイクロダイセクションを用いてIMP3発現部と非発現部の網羅的アレイ解析を推進していく計画である。ヒト臨床検体を用いた研究であり、またレーザーマイクロダイセクションについては自施設での設備がなく外注を予定することとした。そのため、今後は検体評価を十分に行い適切な採取部位を確認した上での発現プロファイル解析が重要であると考え、病理専門医との連携を図る予定である。また、発現プロファイル解析については事前の計画通り、IPA解析などバイオインフォマティクスを駆使するとともに、バイオインフォマティシャンとの連携も図る予定である。すでにエピジェネティクス関連の遺伝子群がIMP3の標的分子である可能性の示唆を得ており、今後は特にこれら分子についても注目して解析を施行してゆく。この抽出作業を通じて、先行研究で明らかになったIMP3のin vivoにおける腫瘍原性の付与について、新たな知見が得られることが期待される。
昨年度前半で本務先を異動することが内定しており、必要な物品購入などが新たに必要になる可能性を見越し、平成27年度の使用額を予め制限し、平成28年度の購入費用に充てる計画としたため、次年度使用額が生じた。
子宮癌肉腫検体パラフィン切片からのRNA抽出、遺伝子プロファイルの比較を計画している。実際にはホルマリン固定・パラフィン包埋組織から、レーザーマイクロダイセクションによりIMP3発現陽性部および陰性部を分取し、micro RNAを含むtotal RNA抽出を行う。レーザーマイクロダイセクションおよび発現アレイ解析については外注を予定しており、研究費を充てる計画である。また、細胞株を用いたIMP3関連候補分子の過剰発現、ノックダウンによる形質変化の確認を行う計画の他、IMP3とエピジェネティック関連薬剤添加による発現制御の検討を予定しており、実験試薬などの消耗品費として研究費を充てる計画である。さらには研究成果の報告のため、学会参加を含めた調査研究旅費、論文投稿のための準備費用を計上している。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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