申請者らはHIF-1阻害剤であるエキノマイシンが子宮内膜症の治療薬となる可能性を考えて、実験を行ってきた。平成29年度までの研究で、異所性子宮内膜細胞が正所性子宮内膜に比してVEGF分泌量が高く、低酸素環境下でVEGF分泌量が上昇、SDF-1分泌が低下し、VEGFの転写因子であるHIF-1の発現が増加することを明らかにした。さらに低酸素刺激によって増加したVEGF分泌がHIF-1阻害剤のエキノマイシンで抑制され、低酸素刺激によって減少したSDF-1分泌がエキノマイシンの影響を受けないことを確認し、VEGF分泌がHIF-1を介することを解明した。平成30年度は、現在、子宮内膜症の薬物療法として用いられているさまざまなプロゲスチン製剤とHIF-1阻害剤の血管新生因子への分泌能への影響を比較検討し、プロゲスチン製剤がVEGF分泌に影響を与えないことを明らかにした。つまりエキノマイシンはこれまでのホルモン製剤とは全く異なる機序で異所性子宮内膜細胞の増殖を抑制し、子宮内膜症の治療薬となる可能性を持っている。またHIF-1阻害剤は癌細胞のアポトーシスを誘導するという報告があり、子宮内膜症細胞におけるその作用を確認するべく、異所性子宮内膜細胞にエキノマイシンを添加培養して、細胞増殖能、アポトーシス効果を検討した。その結果エキノマイシン100nMで子宮内膜症細胞の細胞増殖能は抑制され、アポトーシス抑制遺伝子であるBcl-xL、Bcl-2タンパクの発現を低下させることを解明した。このことによりエキノマイシンは子宮内膜症への作用として血管新生因子の阻害のみならずアポトーシス効果も期待できる薬剤となる可能性がある。今後はHIF-1を機軸とした子宮内膜炎症応答について検討し、子宮内膜症の発生・進展の細胞生物学・分子生物学的メカニズムの解明を目指す。
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