高齢の不妊患者の生殖補助医療後の胚では、多核割球が高頻度に形成され妊孕性低下の原因となっている。しかし、その形成機序には不明な点が多く、また回避策として有効な手段も確立されていない。多核割球の形成機序を解明するために以下の二つの研究に着目した。1. コンドロイチン硫酸(CS)鎖の欠損胚では多核割球が形成され、さらに生体内においても骨格筋の分化過程でCS鎖の減少が多核化・融合の過程に重要である。2. 加齢に伴うCS鎖の減少が、加齢疾患の原因となっている。本研究では、以上の二つの研究を基盤とし融合することで、加齢によるCS鎖の減少が多核割球形成の原因となり妊孕性低下の一因となっているという仮説を提唱し、検証している。これまでに、CS鎖が卵割時に細胞分裂の最終段階に形成される細胞間架橋構造の中央体に分布することを明らかにしてきた。前年度までに、CS鎖を担うコアタンパク質の探索を行い、CS鎖と同様の局在を示すCSプロテオグリカン(CSPG)を決定した。平成28年度は、決定したCSPGの卵割時の動態を解析することを目的として、CSPGと蛍光タンパク質を融合したmRNAを発現するプラスミドを構築した。さらに、CS鎖が結合すると考えられている部位について変異を導入したプラスミドについても構築を行った。作製した野生型及び変異体のプラスミドよりmRNAを合成し、マウス着床前胚にマイクロインジェクション法によって導入することでその動態を共同研究者の協力を得てタイムラプス観察した。その結果、CS結合部位の欠損によって、CSPGの中央体への集積が弱まることが明らかとなった。以上のことから、CS鎖の有無が中央体への集積に関与していることが示唆された。今後不足するデータを取得し、論文としてまとめる。
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