研究実績の概要 |
本邦の悪性腫瘍の5%を占める頭頚部がんにおいて、その診断的価値のある腫瘍マーカーは皆無の状態であり、診断に有用な腫瘍マーカーの同定は重要な研究テーマとなっている。本研究では、臨床サンプルを用いたトランスレーショナルリサーチにて、頭頚部発がん予測診断、予後診断に有用なマーカーを探索したいと考えた。マーカー同定に至るまでの問題の1つは、これまで研究に使用できる検体の保存数が少なかったことにあり、手術検体の採取保存が急務である。今年度、東北大学耳鼻咽喉・頭頚部外科において、年間116例の頭頚部癌手術が行われた。その中で、年間80例の頭頚部癌検体を採取保存した。多段階発がんモデルとなりうる、正常組織、白斑もしくは紅斑症組織、正常組織の3つの検体が揃う症例は5例にとどまった。それら症例の血液も採取、保存した。 症例蓄積に時間を要することから、本年度、私は転写因子BACH1の頭頚部癌における機能について解析を行った。近年、本因子が癌の悪性化、特に転移促進に寄与するといった報告が相次いでいる。それら報告に先駆け、わたしはBACH1がHRAS変異遺伝子を導入したマウス線維芽細胞のERK活性を亢進させ、悪性化を促すことを報告している(Nakanome et al, Oncogene 2012)。そこで今回、ヒト頭頚部癌細胞株においてBACH1をノックダウンしたところ、細胞死の割合が増加することを見出した。またこの時、BACH1ノックダウン細胞においてERKシグナルに変化はなく、ほかのあるシグナル因子(X)の遺伝子発現が有意にさがることがわかった。頭頚部癌の生存には、BACH1を介したXのシグナルが必要である可能性が示唆され、今後予後マーカーとしての可能性を探る予定である。
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