研究課題/領域番号 |
15K20181
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
國井 直樹 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (00456047)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | キメラ抗原受容体 / mesothelin / 免疫療法 / 唾液腺癌 / トランスレーショナル・リサーチ |
研究実績の概要 |
これまで抗原特異的がん免疫療法として、がん抗原ペプチド療法や樹状細胞療法などのワクチン療法の臨床研究が行われてきたが、未だ治療法として確立していない。近年、がん特異抗原を認識するT細胞受容体 (TCR) やキメラ抗原受容体 (CAR) をリンパ球に遺伝子導入する技術が開発され、特にCD19を認識するCARを発現したT細胞による非上皮性悪性腫瘍に対する臨床研究では良好な結果が報告されている。しかし、CART細胞による固形がんに対する養子免疫療法については十分な有効性が示されていない。その原因として、適切な治療標的分子(がん細胞のみに強発現していて正常細胞には全く発現していない分子)がないこと、がん組織内部へのCART細胞の浸潤が十分でないこと、がん局所で免疫が抑制されていることなどが挙げられる。 頭頸部癌に分類される唾液腺がんの5年生存率は、早期患者は80%以上であるが、Ⅳ期では20%程度と報告する施設が多い。その理由として、多くの唾液腺癌は放射線療法・化学療法に抵抗性であり、切除不能例や遠隔転移例では治療法が確立していない点が挙げられる。それ故、予後の改善には新規治療戦略の確立が必要不可欠と考えられる。 本研究では、まず中皮腫や卵巣・膵臓の腺癌など多くの固形癌で過剰な発現が認められているmesothelin (MSLN) の唾液腺癌における発現を調べた。次に、マウス由来抗ヒトMSLN抗体クローンであるSS1からCARを作成し、MSLN発現唾液腺細胞株に対するCART細胞の抗腫瘍活性を証明した。さらに活性化したinvariant natural killer T (iNKT) 細胞がCART細胞の抗原認識後の活性化を強化し、抗腫瘍効果を高めることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、ヒト唾液腺癌由来細胞株であるA-253とそれ以外の4種の癌細胞株において抗MSLN抗体を用いてフローサイトメトリーにて解析したところ、A-253においてMSLNの高発現が確認された。次に、ヒト唾液腺癌手術検体16検体を用いてMSLN発現を免疫組織化学的に検証したところ、ほとんどの症例において様々な発現強度のMSLNが確認された。また、MSLN特異的CARをレンチウイルスを用いて、ヒトCD8 T細胞導入し、高率にCARを発現するエフェクター細胞集団を調製し、これらの細胞群のMSLN特異的CAR発現率をフローサイトメトリーにて解析したところ、高純度のMSLN特異的CAR導入T細胞が調製された。これらのCART細胞を用いて各細胞株に暴露後の活性化能を検討したところ、暴露した腫瘍細胞のメソテリン発現量に依存的にT細胞の活性化マーカーであるCD107aの発現上昇が認められ、iNKT細胞の添加により反応は増強された。さらに、CART細胞の各細胞株に対する細胞傷害活性をクロム放出試験にて検討したところ、クロム放出試験にてMSLN発現腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を示し、iNKT細胞との共培養にて抗腫瘍活性が上昇した。以上の成果より、唾液腺癌に対するMSLN特異的CAR導入T細胞と活性化iNKT細胞による養子免疫療法は有効な治療戦略になる可能性があると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
唾液腺癌に対するMSLN特異的CAR導入T細胞と活性化iNKT細胞による養子免疫療法の臨床応用に向けて前臨床試験を行うとともに、臨床試験開始に向けたSOPの作成、および認定再生医療等委員会での審議に向けた各種書類の整備、標準治療化を見越したPMDAへの薬事戦略相談などを順次行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の端数調整を行わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算に組み込む予定。
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